(ろみじゅり!) |
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母たちの一声と説得と、それからふたりの子らの結びつきにより、長きに渡る両家の確執はついに終わりを告げた。 卒業を待って、二人の子供の結婚式は、それぞれの良家で行われた。 もちろん友人親戚商店街の皆さま総動員で、日本髪を結ったが白無垢で家の縁側に現れた時には歓声があがった。ちゃんとってもきれい、とまだ小さな克朗の妹。いいないいな、お嫁さん、いいな。 紋付き袴の克朗が庭先でを出迎えて、件の戦で壊れたまんま、風通しが良くなったかつての塀のあった線を踏み越えて、二人は渋沢家の縁側に上がった。並んだ二人に「よっ!ご両人!」と声が飛ぶ。 ちなみに日本の守護神の結婚式をカメラに収めようとやってきた取材陣は、商店街へと続くいたる道路にたむろしているガラの悪いヤンキーたちや、なぜか延々と青にならない横断歩道、やたら大周りな迂回路を示してくる交通整備の駐在さん、ズラズラと列になってランニングする柔道着集団、亀もびっくりなスピードで道路を横断しようとするおばあさん、なぞの中国拳法の使い手たちの熱いバトル、すごく爽やかな笑顔で道を尋ねてくるホスト風のいい男、などに阻まれてちっとも目的地に辿りつけやしなかった。 「キャプテンよかったなあ!」 色々話を聞いていたらしい彼の後輩が自分のことのように嬉しそうだ。 「苦労したかいがあったよなあ晶!」 「そうよね!克朗くん感謝してよね!」 ということでそこにいる日本代表紹介してくれない!?とは金物屋の名物双子だ。 家の男どもはみぃんな男泣きに泣いている。晴れの日であるからといってそれを笑いたいのを堪え、というよりこうやって目の前で並ばれると我が家の克朗と隣のちゃんはやっぱりとってもお似合いで、渋沢家の男どももちょっと泣きそうになっていた。庭に用意された3メートルあるウェディングケーキは、東西菓子の匠の見事な共演である。彼の後輩のうち約一名が、瞳をキラキラ輝かせていた。 お父さんお母さんおじいちゃんおばあちゃん今までお世話になりましたの下りでとうとう貴一さんがわんわん泣き始めて、それを辰朗さんが慰めるという、今まででは信じられない一幕も見られた。 克朗がひっそり一番うれしかったのは、藍の兄の太一さんが、こっそり裏で 「妹を頼むな。」 と言った後、小学生の頃のように、克朗サッカーうまくなったなあ、と照れたみたいに笑ってくれたことだった。 「ほらほら二人とももっと寄って!」 商店街の写真屋さんは、朝から大張りきりだった。 特大アルバム作るからねとバッシャバッシャとフラッシュをたきまくっている。 最後、縁側で新郎新婦を真ん中にして新しい家族の集合写真を撮った。いい写真だなあ、と写真屋の旦那さん、シャッターを押す前からピントを合わせる目が霞んでいけない。ちくしょう、老眼かあ。 「はい、チーズ!」 いやあもうあの騒々しい音ぉ、聞くことがねえんだなあと思うと張り合いがなくなるなあ、とクリーニング屋のおじさんは笑いながら泣いていたが、一週間後にはやっぱり元気な音が商店街に響いた。 喧嘩健康法ってのが、この世にはあってな。 それがジジイ二人のいいわけである。なんだかんだ、喧嘩友達というやつだったのだろう。喧嘩しては仲直りして酒を呑み、喧嘩しては喧嘩して、奥さんに怒られて仲直りして、肩組んで日本代表の応援をしていい気分で呑んで寝て、やっぱり次の日には喧嘩している。 今日も本当にいい天気だ。 絶好のサッカー日和、とはきっとこのこと。二人のマンションのベランダには、いつも気持ちのいい風が吹く。靴ひもを結び終わって、忘れ物ない?と背中からかかる声に克朗は頷いて立ち上がった。 「克さん今日もサッカー頑張ってね!」 にっこり笑っていってらっしゃいといってきます。 前途洋洋明日も晴れ。 なにせこの物語、ハッピーエンドである。 |