第五夜 今日は左の足首の輪がない。右手にも左手にも右足にも左足にも、音の鳴る輪がない。どんどんは軽くなって、そのうち地上に繋ぎ止める金銀の輪を全部失って、空へ昇っていくのかしらと馬鹿なことを少し考えた。重くなるのは見張り番の懐ばかりだ。 日々軽くなるこの人は、最後どこへいくのだろう。 「今日も勝ちましたね。」 なんだか聞き飽きたようなフレーズだったが、なんとなく耳にくすぐったい。別にが来る前も彼はずっと“今日も勝って”きたのだから、別にどうといった変わりがあるわけではないのだけれど。 彼は黙っていた。ただその一族独特の瞳に、どこか得意げな光が宿るのを見ては曖昧に微笑した。さすが、わたくしが見込んだだけのことはあります。という妙に張り切って元気よく発した声は、虚しく石畳に散らばる。 「返事をしてくれてもいいのではありませんか?」 やっぱり彼は黙っていた。 ただその獣じみた瞳を、の上に注いではいる。 「ここでは何をしゃべっても、ほとんど返事をしてもらえないから、二人いるのにひとりごとみたいです。」 実際その通りなのだから仕方ない。何をいまさら、と顔に出ていたのか、「声に出して突っ込んでくださいな。」と無理な注文をされる。彼は心底、めんどい、と無気力な表情を露わにすることで自らの言葉とし、ゴロリと横になる。今日は三人と連続して戦った。こうして横になるだけで、うつら、うつら。目蓋が下がる。とても疲れていた。なのにときたら、いつもの実のない、意味のないお喋りだ。不愉快になるより前に、それすら今の彼には子守唄だ。 彼の頭がカクリと落ちかかって、それにぴしゃりとは口を紡ぐ。 そうそうそのまま。…静かに。 もうほとんど眠りに絡め取られてうっそりとした意識で彼はに語りかけていた。とても、とても、ねむいんだ。そしてつかれている。眠らせてほしい。 お情けでわずかに藁が敷いてあるだけの冷たい石畳みの上で、お休み三秒、横になった彼がさっそく夢の世界へと旅立った。 それを呆れたように眺めた後で、ふ、と優しくの目元が緩んだ。 異国の剣奴は故郷の夢を見るのだろうか。少年が見るのは、それとも家族の、夢だろうか。白い手が闇の中優しく少年の額を撫ぜた。 「…おやすみなさい。」 なつかしいにおいの夢を見た。 きがする、 だけ。 朝目覚めた時もちろんは影も形も見当たらなかった。 ただ彼の肩に、かけたってなんの意味も成さないような、薄い絹のヴェールがかけられていた。 |