七日後の昼 1 そうしてお金持ちで大臣の娘だったお嬢様の言うところの七日後がついに来て、カチャリという音と共に出陣を告げられた彼はうっそりと顔を上げる。鎖を引かれて石畳の階段を昇り、闘技場の中心へと出る。いつもこの瞬間、まぶしさに目を焼かれるようで嫌いだった。 『皆様お馴染み、正真正銘の本物でございます!伝説の戦闘民族少年ファナリス―――!!!』 ワアアと歓声と野次、それから小さな悲鳴があがる。野蛮だ、おそろしい、獣の、未開の民族、そう言った言葉は聞きなれている。 『そうして相対するはあ〜!』 司会が大きな身振りで彼の真逆を指した。 『帝の覚えも目出度き宮廷一の誉れ高き剣士!おお〜!しかしながら今やその身は残虐非道な殺人鬼!婚約者、大臣一家殺しの死刑囚、ヴェルダ――――!!!』 彼と同じように、外の光に眩しげに眼を細めながら、よく日に焼けた、金髪の美丈夫が立っていた。若いご婦人方の黄色い悲鳴と、それに負けないほどの怒号ともつかない野次が一斉に巻き起こった。ひとごろし、うらぎりもの、さつじんき!それすらまるでそよ風のように、男は動じない。いかにも若い娘が夢中になりそうな、甘やかな顔立ち。その整った顔に収まった一対の青い目玉が、まるで「やあ」とでも挨拶するように彼を見た。 一瞬彼の背筋にゾッと寒気が走る。 両手が彼と同じように拘束されていなければ、親しげに片手を上げて、いい天気だね、とでも言ってきそうな男だ。そしてそう言ったその口で、いい天気だね、こんにちは、元気だったかいと動いたその口で、同じように死ねと言える口だ。にこやかな目玉はしかしわらってはいない。 本能のまま危険を察知し、剣を合わせるよりも前から呻り、姿勢も低く構えを取った彼に、「おや、」と今度こそ男は首を傾げて微笑んだ。 「流石はファナリスだ。暗黒大陸育ちは野生のカンってのが鋭いのかな?」 二人の背後の檻が音を立ててしまった。大きく銅鑼が打ち鳴らされ、歓声。「坊主!ぶっ殺せ!!!」どこからともなく始まった声は、ころせ、ころせ、と幾重にも重なる大合唱となってコロシアム全体に響き渡る。 「ひどいなあ。」 ゆったりと剣を構えながら男が微笑んだ。隙などどこにもない。どこへ打ち込んでも、必ず斬り返されるイメージが浮かぶ。強い、つよい、つよい。とても―――とても。剣を握る腕が、ブルリと一度震えた。武者震いだ―――。剣を捨て、脚と牙で、拳で今すぐにでも斬りかかりたい。剣は彼の、本分ではないのだから。それに対して微笑む男の、壮絶なこと。まるでその体を一振りの剣のようにして、真夜中、美しい人がこの闘技場を包む大合唱と同じ要求を口にした男は立っている。 たのしいころしあいのじかんだ。 そうその口が動いたような気がする。 くるっている。 もう一度高く、大きく、銅鑼が打ち鳴らされた。 たたかいのあいずだ。 |