たつまき。家はばらばらに、まるでぺしゃんこだ。
エプシロンは、一瞬すべての機能が停止してしまうような心地がした。 縋るような思いで、目を瓦礫の下に凝らす。生体反応を捉えた。いきている!(ああ!)
「!」
瓦礫を掻き分けて、エプシロンが腕を伸ばすと、その人は自分こそ血を流して壊れてしまいそうなのに、彼の指先の皮膚が乱暴に瓦礫を扱ったために傷つき痛ましい形になっていることに眉を寄せた。
「エプシロン、」
たよりなさげに声が揺れる。エプシロンは、コンピュータがなにか答えを出す前に勝手に動いた。
壊れそうなその人を抱きしめると、やわらかい。なんてたよりなくてはかなげでまもらなくてはならないものなのか!
「エプシロン、お父さんが、」
腕に縋るようにして、が呟いた。
「お父さんが、…、噫。」
最後はもう言葉になりきらなかった。
は泣いている。人間だから。
しかしエプシロンも泣いていた。機械 だけれど。
(エプシロン、私はね、君を本当の息子のように思っているよ。いつでも君がしあわせであるようにねがっているよ。そしてどうかできるなら、私がいなくなった後もあの娘をまもってやっておくれ。)(戦争?君の選択は正しか った。私は君を誇りに思うよ。君の手はまもるためにつくったんだ。たくさんのものを。そして君の手は、君と君のたいせつな人々の、しあわせをつつむためにもあるんだよ。)(エプシロン)(私の、息子)
「…。(ああ)」
にくしみ。
てにいれずにすんだものなのに。
みてみぬふりをしてしらないふりをしてただただかなしみなどめをふさいで。(体が熱い。火のようだ。)
制御がきかない。
まるでこのままでは、この怒りに悲しみにを押し潰してしまいそう。なにか言葉をはっするのも億劫でエプシロンは黙って腕をほどくとゆらりとたちあがった。
なきはらした目玉が、涙にぬれた睫毛が、エプシロンを見る。
どこへいくの?
白く細い指先がわずかに彼の服の裾を掴む。
「エプシロン?」
悲しみを帯びたその声音。
くったくのないあの美しい声を奪ったものがいる。私の神を殺したものがいる。
私の父、私の生みの親、私の神。私のいのち。私の。私の!!!
エプシロンはひどい顔をしている。まるで人間だ。今までのどんな自然に浮かべた表情より彼は今人間だった。
かなしいことに、だれかの望み通りに。
「エプシロン、」「ここにいてください。」「いかないで!」
「すぐ帰ります」
「エプシロン!」
「(私はもう制御できない)」
今にも叫び出したいこの残酷な衝動をひたすら抱えてエプシロンは飛び出した。
「エプシロン!!」
絶望に彩られたあの娘の呼び声ももう遠い。聞こえない。 (私の。私の、わたしの!!!) |