談話室に人影は無く、時折小さく金属音が鳴った。少年は格好をつけて窓辺に足を上げて座っていたし、少女は地べたに座り込んでテーブルの上で退屈そうに遊んでいる。
「何が不満だい
 少年がにやりと笑う。少女はつまらなさそうに肘を着いて、テーブルの上の銀のスプーンをいじってはカチャカチャと音をさせている。白い指先がスプーンを玩び、そこに映る少年の顔は奇妙に冷たく歪んでいる。
 彼の目に映る世界もまた、同じように彎曲していることを彼女は知っていた。だから世界は退屈で、無味乾燥にひび割れている。
「しいてあげるならすべて。」
 少女は答えた、その答えは少年の予想の範疇だ。正確を期すならど真ん中と言う。だからこそ彼はその壊れた目玉の映す世界をいとしく思って止まないのである。
 彼は少し、自分を頭のおかしくそれでいて天才的な男だと思っていた。
 そして少女は、少年を狂っているかそうでないなら超級の馬鹿だと思っている。
 彼の世界は、少し以前まで彼だけを中心に素晴らしくまわっており、つい最近はもうずっと、一人の少女を中心に素晴らしくハッピーに回っていて、そうであり続ける限り彼女に世界はアンハッピーだった。自分のアンハッピーが少年のハッピーのスパイスになっていることも知っていた少女は、やはり彼のことがとても憎らしかったので、少年の親友二人でお手玉をしていた。
 少年はそれを静かに面白そうに、やはり何もかもみな一切合切を分かっているという顔をして微笑むばかりなので、少女はますます彼が嫌いだった。そうであるのにその彼女の言うところの至上稀に見る大馬鹿眼鏡への執着を捨てられない自分は、その馬鹿を上回る馬鹿であると、彼女は冷静に考えている。そしてそう考えるだけで腹が立ち、胸糞悪くてたまらなくなるので、最近は諦め気味だ。なにもかもが馬鹿馬鹿しい。
 少年の世界の中心である美しい赤毛の少女は、魔女の目を持っていた。彼女は利発で聡明で美しく優しく公平で公正であり、気高く、賢く勇敢で、思慮深くまた機知に富んで愛らしく、懸命であったが、愚鈍でもあった。
 だからこそ彼女はそれでも少女の親友であり、少年の悪友であった。
 これだから世界はつまらないのだわと少女は言い、首をくくって死んでやろうかとも思ったが、まるで死ぬほど馬鹿のことが好きだと高らかに全世界に宣言するようなものなので、そんな考えただけで気持ちが悪くて吐き気がしそうな行為は止める。そしてそういう考えすべてが、どうせ少年にはばれているので、代わりにお手玉に夢中なフリを続ける。
 ぽーんぽーんと中空に放り出して、ジョージイポージイプリンにパイ。小さく口の中で歌う。男の子にはキスしてポイ。最高につまらないわ。メリーゴランドの天辺つまり真ん中の、女神様のありがたいお言葉を鼻で笑い飛ばす。私あなたのこと好きだけれどそういうところだけは認められないわ、みんなあなたのこと本気で好きなのにそんな弄ぶようなことして。
 "ような"じゃないわ、少女は言った。私弄んでるんだもの。
 そう言われたあの娘の顔ったら!噫つまらない。
 子犬と仔狼をに交互にキスをして、噫やはり最高に世界はおもしろくないわとストイックに口端に笑みを浮かべ、少女はテーブルに肘を着いて少年の顔の映るスプーンで遊んでいる。
20080822