冷酷無慈悲なお菓子の女王。
兵隊並べて端から倒した。砂糖の兵隊あんよがもげて、痛いと泣いたが気にしなかった。
我が儘残酷お菓子の女王。
砂糖の娘を真紅で染めて、クリームの雪原投げ込んだ。凍えて吐いた甘い吐息をお空に浮かべてたいそう満足。
「お菓子よお菓子、我が民草よ。食べられてこそのこの幸福。その身も心もすべてみな、少年少女に捧げなさい。」
冷たい瞳でそう言って、氷砂糖の玉座に座った。飴の宝石杖に翳して彼女はとても美しかった。白いドレスはクリームで、花の飾りも宝石も見事なガラスの飴細工、頬にまぶしたばら色の砂糖のなんて素敵で甘やかな色!大きな苺の髪飾り、幾つも並べて大層おすまし。
今日も彼女は送り出す。金平糖の兵隊さんに、チョコレートの軍馬達。踊りながら子供達の国お菓子のお店へ出てゆくのはだあれ?砂糖菓子の娘達。桃色のお砂糖を散らして。バラの形のお砂糖も、紅茶に沈めてしまいましょう。女王その人の指先ひとつで、お菓子はみぃんなきれいに子供のお口へポイ!
女王様は大層満足。中国のお茶に雪を浮かべて、一口飲んで微笑んだ。
食べられてこそのこの幸福!
小さく小さく歌っては、ぞろぞろ歩く兵隊を青い飴玉固めてできた、銀の目玉で眺めてる。お店へ続く真っ赤な絨毯、アルミホイルの銀紙の、星の形をあいしてる。白いドレスのドレープのひだがとっても美しかった。
唯我独尊お菓子の女王。
予想外の出来事は、ある日突然訪れた。クリーム白亜の彼女の城に(もちろん砂糖でできている)、大きな手のひらやってきて、玉座の女王連れ去った。あれあれまあまあなんてこと!無礼者めと悲鳴を上げて、杖振り回すその内に、お菓子の女王攫われて、店のケースに飾られた。
街には花がとりどり咲いて、甘い匂いが満ちていた。
棚のお菓子がひそひそ囁く。
「女王様がお越しになった!」
「ついに彼女も食べられるのだ。」
「ついに彼女も食べられるのだ!」
ばんざい万歳ばんざいばんざい…遠いざわめき霞のように店中さざめき満ちていた。万歳三唱止まない中で、女王様は歯軋りしてた。
ああなんてこと!なんてこと!このわたくしが、食べられる?このわたくしが!わたくしが!
すると突然目の前に、ひょっこり少年、現れた。ケースの中の女王を、見つけてにっこり微笑んだ。くすんだ金の髪の毛が、サラサラ光をこぼしてた。赤と金とのストライプ。キャンディーステッキによく似てる。
これ下さいなとそう言って、彼は女王指差した。
(ああなんてこと!なんてこと!)
彼女の悲鳴は届かない。万歳三唱響いてる。真っ赤な袋に入れられて、彼女はどこかへ運ばれてった。彼が包みを大切そうに、抱えて歩くものだから、ちっとも揺れはしなかったけど、彼女は吐いてしまいたかった。
随分歩いた気もしたが、そんなに歩いてないような。扉を開く音がして、包みはどこかへ下ろされた。
「、いる?」
彼が誰かを呼んでいる。その声聞くのは二度目だが、なんて忌々しいのでしょうと、女王様は腕組んだ。その指に光る金剛石の飴玉すらも憎らしかった。
「なあに、リーマス。」
声がする。
(まあなんてこと!)
包みの中でもう一度、彼女はイライラ、顔をしかめてそう言った。
(なんて声でしょう!なんて白い粉砂糖みたいな声なのかしら!)
さらさらしていて少し掠れて、女の子の声がした。花のような声がした。
「お土産買ってきたんだよ。ねえ、一緒に食べようよ。」
女の子のもちろん、と女王様のなんてこと!は見事にぴったり重なって、それでももちろん男の子には、かたっぽの声しか聞こえなかった。
しばらく陶器をカチャカチャ言わす、音が静かに聞こえていたが、ついに包みが解かれて、彼女はついに、少年少女のまん前に。
(まあなんてこと!なんてこと!とんでもないわとんでもない!このわたくしを食べるだなんて!)
慌ててすっかり惨めな様子、かわいそうなお菓子の女王金切り声で叫んだけれどやっぱり誰にも聞こえずに、二人はわあと歓声あげた。
「わあとってもおいしそう!」
(まあなんて目玉かしらどんぐり飴みたいだわ!)
「少し奮発しちゃった。」
(まあなんて頬かしらメレンゲのようだわ!)
「私も食べていいの?」
(なんてことかしらわたくしを食べるだなんて!)
「もちろん。ひとりじゃ食べきれないよ。」
(無礼者だわ首をちょんぎってやるわ!)
「リーマスなら食べちゃいそうだわ。」
(まあなんて爪かしらバラのお砂糖のようだわ!)
「ひどいなあ!」
(まあなんて睫かしら金色の飴細工のようだわ!)
「ふふ、どうもありがとう。」
(食べてしまうの?)
「どういたしまして。」
(ああわたくしを食べてしまうの?)
「私、この苺のおっきいとこ、欲しいなあ。」
(いやだこれは一番いいイチゴなのよ!)
「あっずるいよ!」
(ああまったくなんてことかしら!)
「リーマスにはほら、飴細工のとこあげるから。」
(ああなんてことなんてことなんて!)
さあいただきますをどうぞ?素敵な素敵な女王様!
食べられてこそのこの幸福!いつも言っていたでしょう?さあ、さあ。
「いただきます」
その身も心もすべてみな、少年少女に捧げなさい。
ああなんてかわいそうなお菓子の女王様のお話! 20080529/シチミ