リーマスはある日、何もかもぜんぶ嫌になって、午後の授業も全部さぼって中庭のすてきな木影にに横になった。もう目覚めてやらないぞと心に決めていたのだけれど、そしたらどんどん木々は一層鬱蒼と繁ってついには見知らぬジャングルか、そうでないなら闇の森みたくなった。 リーマスはずんずん森の奥へ歩いていった。三日月がリーマスを照らしてた。 怖いものなんてなんにもないような気がしてて、もう戻るつもりはこれっぽちもありゃしなかった。 しばらくいくとぽっかり開けた森の広場に出た。 「懐かしいなぁ!」 リーマスは思わず声を上げた。広場の真ん中にはリーマスが小さい頃遊んだブリキの飛行機が銀のプロペラを震わせて彼を待っていた。 リーマスは乗り込むとハンドルを握った。プルプル羽が鳴って飛行機は半月の夜空に飛び出した。 飛行機はリーマスを乗せて北へ、北へ。 1日経ち2日経ち、1年と1日飛んだ頃、狼たちの住むところに着いた。 恐ろしい狼たちは地上でリーマスに向かって目をギラギラさせて怖い声で吠えた。 でもリーマスはその時怖いものなんてなかったので、うおーっと吠えて飛行機からヒラリと着地するとその牙を剥いて見せた。 「うるさい!黙れ!!」 すると狼たちは、「なんて恐ろしい狼だ!」と言って、「おや、この子の傷は王の爪痕じゃないか!」 そうして彼を狼の国の王子にした。リーマスはうきうき楽しくなってきて、狼たちと狼踊りをして浮かれ騒いだ。血がポコポコと沸き立って、足が地面から3センチ浮き上がるほど楽しかった。 みんな大変踊りつかれて、お腹がすいた。すると食事の時間になって、コックがやって来てリーマスに言った。 「今日はごちそうですよ!!」 真っ白なお皿に乗せて運ばれてきたうさぎの女の子(しかもその子ったらリーマスのよくよく知っている子にそーっくり!)を見てリーマスは楽しかったのも吹っ飛んで叫んだ。 「なんてことするんだ!」 「へぇ、今日のは最上級です。王子の好きなものをわざわざ一口の味見だって許さずとりよせたんですよ!」 コックはびっくりして目玉を丸くしている。 「そんなことは許さないぞ!」 リーマスは叫ぶと女の子を逃がしてやった。 「何てことするんです!」 「うるさい黙れ!」 みんなは文句を言いながらちゃんと静かになった。 「ごめんよ。」 リーマスはこんな風に狼な自分がはずかしくって顔を伏せたまま、女の子の頬にそっと触れた。 「お逃げ。ずっとずうっと遠く、満月の見えないところまで。」 女の子はびっくりして頷くと、「ありがとう。」と言って駆けだした。けれど途中で立ち止まると、走って一度リーマスのところへ帰ってきて彼にぎゅっと抱きついた。 「ありがとう、狼さん。私あなたのこと忘れないわ!きっと!きっと!」 そう言ってリーマスのふかふかした毛並みの上からその頬にキスをした。リーマスはびっくりしてほほんでから走って行った女の子の白いふわふわの毛皮をを見送った。 ふいに戻らないと決めた場所にいる人間のあの子が恋しくなった。 狼たちが口々に「勿体ないことを!」と叫ぶのでリーマスはちいに我慢できなくなって叫んだ。 「お前たちみぃんな化け物だ!」 その言葉に狼たちはきょとんと目を見合わせた。 「そうです。」 大臣が進み出て言う。 「そうです、王子。」 大臣は金の目玉をくるくるさせた。 「そして王子もです。」 リーマスは頬がカッカとして、とてもとても残酷な気分になった。 「全員夕食抜き!!就寝ー!!!」 みんな慌てていっせいに寝静まった。 そうしたらリーマスは月の国の王子様なのにさびしくなって、やっぱり優しい誰かさんたちのところに帰りたくなった。空にはぽっかりまんまるなパンケーキムーンが浮かんでいて、見上げながらリーマスは帰ることにした。 王冠を月桂樹の枝にひっかけてびろうどのマントを脱ぐと丁寧に畳んで岩の上に置いた。杖はそのまま地面にさして置く。リーマスが小さなブリキの飛行機に乗り込んだところで狼たちが目を覚まして、追いかけてきて次々叫んだ。 「いかないで!我々はあなたのことが大好きなんだ!! ずっとここにいておくれ!!」 「そんなのいやだ!」 リーマスが怒鳴り返すと狼たちは「ならあなたを食べてしまうぞ!ずっと一緒にいておくれ!!」と言って牙を鳴らし爪をカチカチ言わせた。ひときわ醜く大きな灰色狼が吼えた。 「行くな息子よ!!」 王だ。 「八つ裂きにしてグチャグチャにばらしてやりたいほどお前を愛している!!」 リーマスは冷めた視線を向けただけでさっさとエンジンを鳴らすと紺碧の夜空に飛び立って後ろ手に手を振った。一度も振り返ったりするもんか!リーマスは嬉しくて楽しくて声を立てて笑った。飛行機はまっすぐフラフラと、お月さん目指して飛んでいった。 飛行機は1日経ち2日経ち、懐かしい景色に1年と1日かけて辿り着いた。けれどリーマスは飛行機の中でいつの間にか眠ってしまって、うとうとしていた。とても静かなのは夜の海の上を飛んでいるからなのかそれとも日が翳ってきたからなのかわからなかった。さらさら木影が擦れる音がして、 「リーマス、リーマス?」 優しい声がした。 「起きてったら。あなたひょっとして午後中ここで寝てたの?」 あの子だ。小さく笑ってる。 「ああ、」って寝ぼけ眼で返事をしながらリーマスは何て言おうか考える。 「夢を見たよ、君の夢だ。」 |
20080803 |