「要するに、さ。」
ジェームズは眼鏡を押し上げながら言った。
その顔いっぱいの得意気な笑みがとても憎たらしいので、僕は少し 目を外してジェームズの跳ねた頭のてっぺんあたりの髪の毛を見た。はげてしまえ。
「のココアがおいしいのは、君のために煎れているからだよ。」
リリィの紅茶が僕のためにおいしいみたいにね、とジェームズが片目を瞑る。なんだかその仕草は、彼からのいたわりだとか親愛だとかがやさしく滲んでくるようで、不思議と気分は悪くない。ふだんなら腹の立つその言葉
たちも、妙にすとんとお腹の真ん中あたりに落ち着いた。
そうか、そうだったのか。
「だからどの飲み物も食べ物もおいしいのさ、気持ちが入ってる、なんてよく言うけど、ほんとだよ。
たいせつな人へのたべものには気合いが違うんだよ。一手間加えてみたりだとか、とっておきの材料を
使ったりだとか、 その人の好みに合わせたりだとか、いろいろ試行錯誤するだろ?
おいしい、って言ってほしくって。それだけの ことだよ。」
ふうん、そうなのか。ってシリウスがきょとんとした目で笑った。
それは屈託がなくって僕は少し笑ってしまっ た。
「リーマス笑ったな。」ってシリウスが今度は本当に嬉しそうに目尻を下げる。
あんまりやさしい動作で僕はどきまぎしてしまった。だってジェームズも、同じような顔で僕をみているんだもの。
こういったあけすけのやさしさに、僕はまだ慣れない。とても嬉しいとは、思うのだけど。
シリウスはもう一度僕にむかってにっこり笑うと、感心したようにジェームズに目を移した。
「ジェームズ、お前、そういうこと言ってると頭良さそうだよな。」
シリウスは、いつも悪気がない。
「僕は頭良いの!首席なめんな!」
ジェームズは、ソファから勢い良く立ち上がって叫んだ。
「うん。つい忘れがちな事実だよな。」
シリウスはあくまで真面目なのだ。だからこそ、ジェームズがこんな風に騒々しく言い返せる。
「なにそれ!ムキャー!」
まるでじゃれあいだ。
「…。(この会話が頭悪くしてるんだよ)」
僕はいつもなら言ってしまう言葉をそっとのみこんだ。
別に嫌な気分ではない。
誰かのためにココアを煎れる、ってきっとこういうことなんだよね、僕はそう尋ねてみる。
そして、うんきっとそうだよ、ってそう自分で答えて、今度はにんまり、ひとりで笑った。
おいしい○○の作り方
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