それはある晩のこと。
夜闇の中森の小道に、青白く月明かりが降り積もっている。うねうね曲がったその道は、遠く黄泉路へ昇りゆく、魂の道のようにも見える。淡く光を落とす月は、細く眇められていた。
三日月を見上げて、男は眉をしかめた。そこにあるのは憎しみと、なんとも形容しがたい、思慕だ。
月は青く透き通り、その形は何か、嘲り笑う口のようにも、腐った涙をしとどに流す瞼を伏せた目玉のようにも見えた。
「おおい、。」
男は小さく呼んでみる。
同じ化け物の娘。
銀の髪した怪物の、美しい狂気のこと。
しかし返事はなく、あたりはしんと静まり返っていた。
しかしそれは男にとっては想定内の出来事であったから、彼はただうっすらと微笑む。
まだ満月までは遠い。
彼女も穏やかに眠っているのだろう。どこか待ちこがれるような気分に目を塞ぎながら。
ああそうだ。
三日月の見えない残り半分に隠されているのは我々怪物の凶暴性に他ならない。月が満ちれば暴かれてしまう。見られたくないものには蓋をしろ。彼らは怪物、隠されるべきものたち。
見上げた月の、見えない部分。
闇に隠れて、確かに存在する部分。
水のように光が満ちれば、すべて、すべてを暴き出す。
だから。
だからと言って男は笑った。
だから、僕は、塗り潰す。三日月の残り半分。
殺されるべき者、忌まわしい獣。
僕らの表の裏の裏。
彼はずっと聞いている。耳を静かにそばだてて、光が月な満ちる音。
遠に散らばる星々が嘆いている。どうぞどうぞと。化け物の子らに憐れみを垂れておくれと言って。
ああなんて優しい星々!
彼は喉の奥でクッと笑った。
どうぞその青白く透き通ったその腕で、僕らを優しく殺しておくれ!
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