「運命なんて、信じない」
その言葉に、リドルは大層大声でわらった。
「ばかだねぇ、君は!」
げらげらげらげら。
「本当に、ばかだよ!君」
リドルはあんまりおかしくて、息が続かない。まだわらっている。
「運命が、みんな恋や愛に関係している最後は幸せに辿り着くようなお気楽なものだとでも思ってるの!
みんな悲しい結末の、だれかの都合に合わせたお決まりの喜劇だとでも!
それとも君自身、喜劇役者をきどってるの!
ばっかだなぁ!そんなわけないのに!」
げらげらげらげら。
悲劇を喜劇と言ってのける、捻くれ屋のいじわるの残虐者のリドルの笑いは止むことをしらない。
なんだかずっと続くようにすら思える。合間合間に冷たい毒を孕んで。
「見な!」
彼がばっと手を開いた。
空が開け、彼女の目に、改めて景色が飛び込んで来る。
「す べ て は 運命 だ!
す べ て が 運命 だ!」
彼の笑いはまるで高らかになる喇叭のよう。
聞く者の耳を傲慢に突き刺すのだ。
「この世は必然の織り成す運命ばかりだ、偶然なんて空虚なものが入り込む隙は一縷もありゃしない!わかるかい?
運 命 な ん だ よ !すべては!」
真っ赤な睛のなんてうれしそうなことか。
その口端がなんと喜ばしげな弧を描くことか。
「ぼくも。君もね」
(そうさ!すべては運命!君と僕がじゃない。君が、運命だ。僕もまた、運命だ。君という運命と僕という運命が出会う、これこそ運命の出会い!誰と誰が出会ったってそれはすべてみな等しく一様に運命だ!ああすべて運命なんだよなんの変哲もないなんのおもしろみも希少価値も代り映えも珍しさも驚きもすべてない存在し得ない!運命なんて平凡だ凡庸だすべてだくだらないありふれているすべてがそうなのだから!偶然の出会いこそ存在したなら奇跡に奇跡をいつつ重ねてなお足りないくらいだろうよ!ねえ?)
げらげらげらげら。
20061126