「自分の最期くらい自分で決めるよ。」
そう笑ったの顔は、太陽の逆行で見えなかった。
それなのに何故笑っているとわかったかというと、彼女が声をたてて、いっ そわざとらしいくらいにあはは、と笑ったからだ。その不気味とも取れる滑稽な笑い声は埃の舞う夕方の廊下に嫌に響いた。
僕はその馬鹿みたいな阿呆のような笑い方がたまらなく嫌いだった。
まったく馬鹿馬鹿しい。
赤い夕陽を背に、が尚笑う。口端をつりあげて、歯磨き粉のCMの如く、歯をニッと見せて。その睛だけが、不自然な静けさと穏やかさを湛えてこちらをみているのが、一瞬陰った光の加減で見えた。
「と、いうわけだ。残念だったな。トム・リドル。」
わはは、と再び彼女が笑い声を上 げる。三日月型に細められた睛。
彼女は太陽に向き直った。開け放たれた窓。その枠に足をかける。
「ここでさよならだ、トム・リドル。君は私を忘れられまい!」
あっ、と思う間もなかった。彼女はぐいと窓を潜って真っ青な空へ飛び込んだ。
わーたーしーのーかーちーだーざーまーあーみーろー!!
そんなこの場に不釣り合いな騒 がしく愉快な声が廊下の静寂を切り裂く。
私の勝ちだ!ざまあみろ!!!
形容しがたい鈍い衝突音。途端耳鳴りがするほどの静寂。
僕は只動けずにいた。
あの窓枠に切り取られた四角い空。窓の外。赤く染まった空。赤と橙、黒を混ぜた空。その下の緑。おそらく夕陽に燃えている。
そこには?そこには。そこには。

勝利の雄叫び

                                                  20070415