た む け の 花 束 |
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沈痛な面持ちで男は俯いた。砂を噛むような痛ましい表情は、何を悼んでいるの
か。静かに揺れる視線の先に横たわる女がいた。まだ若い。胸の辺りがうっすらと上下しているのでまだ生きているのだろう。しかしその顔は透けるほど白く、ほとんど血の気がなかった。眠る彼女の顔はどこか死人のように穏やかで優しい。 男はそっと膝を折ると彼女の髪にためらいがちに指先だけで触れた。苦しげに細められた目からは今にも悲しみが形となって溢れてきそうだ。浮かべた笑みは余りに儚く優しい。男は泣きそうになる気持ちを必死に押し殺そうとしていた。 さようなら。 言おうと何度も口を開くが声にならなかった。絞り出すような掠れた吐息が洩れるばかりだ。何か言おうとする度に抉られるような痛みが全身に走る。さよならなどと、言えるはずがな かった。 ――優しく殺める術を知っていればよかったのに。 心臓の辺りを支配するなんとも言えない痛みに思わず目蓋を塞いだ。強く噛んだ奥歯のほうでざり、と嫌な感触がした。どうぞこのままもう目覚めないで。男は祈るように女の頬に少し触れる。 いつだっていつだって。男は彼女だけは傷つけなかった。守ってきた(つもりだ)。噫なのに、なのに。 いつだって自信と確信に満ちていた男の美しい顔が、初めて歪む。噫、僕は、僕は。 男は片手で顔を覆って首を振る。今だけ、今だけだ。こんな後悔もう二度と知らない。 |