おーいおーい、ってどこかで呼ぶ声がした。
だから、マグナは目を覚ました。
辺りはやわらかい緑一面の草原で、やわらかい青空を雲が流れてく。日の光に緑が溶けそうで、風に乗ってやさしい春の匂いがした。黄色い花が、群れて咲いている。うんと伸びをしたら雲に届きそうに空が近くて、西に沈みかけた青ざめた月は、まるで気圏に表れた化石か何かみたいだった。
「誰か呼んでた。」
呟いて、耳を済ましてみたら、やっぱり遠くで、おーいおーい、って呼んでいる。
誰をかな、なんてマグナは不思議と考えなくて、当然みたいにいかなくちゃ、と思った。
辺りには誰もいなくて、ひとりぼっちだったけれど 、こんなすてきなお天気の草原では、気にもならなかった。まあ、実を言えば、ほんの少しの不安のために、わずかに緊張してはいたのだけれど。それでも残りはぜんぶ何か新しいことが始まる予感で爪先までいっぱいで、待ちきれなくて笑ってしまって走り出す、そんな気分だった。
「いかなくちゃ。」
言葉にしたら本当にその通りで、もっと耳を澄ましたら、声は風下から、歌うように聞こえた。
「いまいくよー!!」
マグナは思い切り、お腹の底から出した声を風に重ねた。それはきらきら琥珀色に光って下へ流れていった。
届くかな 、ってちょっとうきうきして、走り出したいのを我慢して、マグナは歌うような足取りで歩きだす。
風が背中にぐいぐい当たって、なんだかそのまま空も歩けそうに体が軽い。
「いますぐいくよ。」
ってわらったら本当にもう羽もないのにマグナは風に乗って宙に飛び出して駆ける駆ける駆ける!
緑の波の上をすべるみたいに。なんて楽しい気分なんだろう!
「おーいおーい!」
駆けながらそう叫んだら、いまいくよー!って声が聞こえて、楽しくなって、マグナは靴を空にぽーんと放り投 げた。(さあふたつ並んで星になれ!)
「もうすぐいくよ!」
わらいながらそう叫んだら、ああ、ほら、もう着いたよ。
緑の原っぱに立ってずっとマグナを呼んでる。
駆けてきたマグナを見つけると、顔中いっぱいにわらって、ほら言葉にはできない瞬間。
「マグナ!」