17.きゅうおうこく

far kingdom



「テメエは―――!!」
「ぎゃああごめんなさいごめんなさいだって知らないんだもん!」
「なんでだよ!」
「はぐれだもん!!」

 大きな声にぐっとリューグが詰まる。そうだった。そう言えばそうだった。それに唇を尖らせて、が話を続ける。
「私は帝国で召喚されて、はぐれになった。それから南大陸から聖王国へ、北上してきた。だから知ってるのは聖王国と帝国のことくらい。」
 その言葉に、ミモザとギブソンが今度は目を丸くしている。
ちゃん、あなたはぐれなの?」
 それにこくりと頷いたに、二人はまた顔を見合わせる。
「"きゅうおうこく"との戦に呼ばれたの。」
 それに今度は、以外の三人が顔を見合わせた。
ちゃん、その"旧王国"っていうのが、今話に出たデグレアを含む軍事国家のことよ。聖王国の北にあってね、打倒聖王国を生きがいにしているといってもいい国なの。」
「それで今回、聖女の奪取と同時にデグレアは、聖王国に宣戦布告してきた―――。」
 それにが、きょとりと目をまるくする。

「じゃあ、戦が始まるの?」

 重たい沈黙が降りた。
「そうなる可能性は、…高いわね。実際彼らは、何度も聖王国内でアメルたちを狙って戦闘を起こしている。立派な侵略行為だわ。」
 再び沈黙が、リビングに降りる。

「君がはぐれだと言うのはわかったよ。」
 ふいにギブソンが顔をあげる。
「だがなぜ君が、リューグと一緒にいるんだい?」
 その言葉に、はああと笑いリューグはやはり少し気分が悪い。

「もちつもたれつ。」

 の口から出た言葉はリューグですら予測不可能だった。三人共が、はあ?と首を傾げる。
「旅の共は道連れ、一人より二人、袖振りあうも他生の縁、旅は道連れ世は情け―――ってシルターンのことわざであるんだけど、知らない?」
 ふるふると二人が首を振る。リューグは前にも聞いたセリフだな、と考えていた。
「まあはぐれになった旅の途中リューグに会いまして、」
「ふんふん、」
「で、そしたらリューグが多分その旧王国の人たちに追われてたから助っ人しようと手を出したら、」
「出したら?」
「逆にざっくりやられまして。」
「あらー。」
「なんとか追っ手は倒したんだけどぶっ倒れちゃって、それでそのままリューグに担いで助けられ、レルムの村でおじいさんとリューグに手当と看病をしていただいて、」
「あらまあ、」
「話を聞いたらすっごく大変そうだし特にあてのある旅じゃなし闘争の匂いはするしやられっぱなしってのも性に合わないしなによりリューグには助けられたし、一回かかわってここでさようならって言うのもなんだか気分が悪い。」
 そこまで言ってにっこりとが笑う。

「だから、ついてきた。」

 あっけらかんと、そう言った。
 なんでこいつは自分が無茶したせいで怪我をしたとか、そういうことを言わないんだろうか。リューグは苛立つような気分を覚える。
 鬼だから。はぐれだから。得体がしれないから。ミモザとギブソンが自分を案じてその質問をしたこともわかっていた。そうしてそれらの質問はみな、一度自分が怒声混じりに、に叩きつけたものだ。
「その時の怪我はもう大丈夫なの?」
「治った。鬼は頑丈。」
「いろいろ質問してすまなかったね。」
「いい。鬼のことを知っているなら、いろいろ心配して当然。」
 その言葉にギブソンたちが、困ったように眉を下げる。
「鬼だけど、私は私。だから、リューグのこと助けるよ。」
「…そう。」
 優しくミモザがほほ笑んだ。
「そう!」
 なぜかリューグはぎりぎりと、喉の奥が焼けるような気がした。