02.旅の道連れ |
underthrow |
額をずうっと不思議そうに見ていたリューグに、少女が笑った。わたしはおにだよ、と彼女が笑う。よく何を考えているのかわからないと言われるリューグには、自分が角を見ていたことが彼女にわかったことに少しばかり驚いた。 「鬼。鬼だよ。お、に。」 自分の額を指して、少女はそう言った。 「…おに?」 「そう。鬼。」 ほら、この角。と言ってが自分の額を指差す。やはりそれは彼女の額を突き破って生えており、リューグにはとても奇妙に見える。痛くはないのだろか。角と皮膚との輪郭は、まろく繋がって、痛いようには見えない。しかしこれはなんなのだろう。 鬼という響きに聞き覚えのない彼には、いまいちその意味がぴんと来なかった。そのという名前も、なじみのない響きをしている。 「んーとね、鬼っていうのは、シルターンに住んでいる、人とは違う生き物のことだよ。私みたいに人に近い形をしたのもいるし、神様になってるのもいるし、こわぁい形した凶悪なやつもいるけど、とりあえずみぃんな角が生えてるの。」 だからすぐわかる。 首を傾げたリューグに、が説明を始める。 よくわからないようなわかるような、噛み砕かれ過ぎた説明を聞いた後で、リューグはただぽつりと 「お前はぐれか。」 と尋ねただけだった。 それには、こくりと頷く。 「…そうか。」 なんと言えばいいかわからなかったから、リューグは黙っていた。さやさやと木々の鳴る。しばらく耳を澄ませたくなるような、森を吹く風の音。 ちょっと考えてから、リューグは立ち上がった。おそらく旅団に関係はないだろう。ならば相手をしている暇はない、そろそろ出かけなくては。 目的の村へはまだある。あまり一緒にいては、いつあの黒の旅団が襲ってくるかしれたものではない。はぐれ召喚獣らしいが、いかにもそのひょろひょろとした少女の手足は、か弱く頼りなく見える。 「じゃあな。」 くるりと背を向けた彼を、がとことこと追いかける。 「ねえ、リューグどこいくの?」 「テメェにゃ関係ないことだ。」 「ねえ、私も行くよ。」 早足だったリューグの歩みが、ピタリと止まった。 「…ハア?」 その言葉にが笑った。 「だって君、ひとりでしょ?私もひとり。旅は道連れ世は情け、ひとりよりふたり、旅の共は道連れ、って知らない?」 「…知らねえよ。」 「まあほら、はぐれに襲われては大変だし。」 「はぐれに言われたくねぇよ。」 「気にしない気にしない。」 ねえついていっていい? ニカリとあけすけの笑み。そういわれて、リューグは詰まった。″旅団の間者"その文字が一瞬浮かぶが、目の前の少女はやはり、あまりにもあの軍隊からはかけ離れている。だが同時に、彼女は思いっきり怪しかった。どうして初対面の、二言三言言葉を交わした人間に、ついてこようとするのだ。 何か目的があるはずだ。それとも単に、はぐれだから人と接することがうれしいのか。やはり油断させてから、身ぐるみ剥ぐつもりなのか。 「なんでついてきたがるんだ。」 警戒心もあらわに、鋭く尋ねる。 「あのねえ、戦のために召喚されたのだけど、肝心の召喚師が死んでしまって。」 ところがのんびりした口調で、まったく関係のない、の身の上話が始まった。 「それで帰る術もないし、どうしたもんかなーとふらふら放浪してたのだけど、」 君、とが笑ってリューグを指差した。 「君、追われているのでしょう。」 にこにこと、私は鬼だよ、と言ったのと同じ、明るい口調。 「闘争の匂いがするよ。」 |