07.老人と少女 |
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がふと目を覚ますと、見知らぬ丸太の組まれた天井が目に入った。暗い木肌の色は、焼けでもしたようだ。ところどころ炭化している。 …どこだろう。 彼女が呆けたのは一瞬、からだを動かそうとした途端に肩に走った痛みに顔をしかめる。 「…気がついたか。」 聞いたことのあるようなないような声だ。ぼんやりとした視界、眉間に力を込めると、次第にをのぞき込んでいる人物の顔が鮮明になる。鋭く隙がないが、力強く穏やかな眼差し。 「…リューグ?」 その言葉に、覗き込んでいた人物はきょとりとした。 「いつの間にそんな…マッチョなおじいさんに…?」 その言葉に、豪快に老人は笑いだした。老人というのがはばかられるほど、その体つきはがっしりと逞しく熊のようだ。 「リューグじゃない!」 弱々しくも驚いたようにが笑い、老人もなお笑う。 「ハッハッハ!おもしろい、わしがリューグに見えたか!」 「髪の色が似てたから。あと眼がね。…でもよく見たら、違うね。よかった。リューグがおじいさんになるほど、寝てたのかと思った。」 途切れ途切れにそう言ったに、「お主シルターンの鬼神か。」と訳知り顔で老人が頷く。 「おじいさんは、どなたです?」 が尋ねる。 「わしの名はアグラバイン。アグラ爺さんと呼ばれておる。…リューグの養い親…といったところか。」 パチパチと眼を瞬かせて、がアグラバインを見上げている。不思議な目だ。菫色のそれは、炎を透かすと金に見える。 「驚いたぞ。リューグがお前さんを担いで帰ってきた時は。」 生きているとは思っていたが、まさか自分はピンピンして怪我人をつれてくるとは。話を続ける彼を、はじっと見つめていた。それこそ穴があくほどに。 「…ワシの顔になにかついておるか?」 そう言って顎髭に手をやったアグラバインに、は首を振ろうとして、うめく。肩の怪我を忘れていた。 「おお、動くといかん。死んでもおかしくなかった傷だ…今リューグが薬湯を持ってくる。」 リューグが?とが不思議そうに首を傾げ、それに気付かずアグラバインは話を続ける。 「付きっきりで看病しとったぞ?今ちょうど叩き出したところだ。」 それにが、ますます目を丸くした。かすかに口元に微笑みが浮かぶ。それは困ったような安堵したような混ぜこぜな微笑で、泣き出す前のようにも見えた。 「助けるつもりが助けられた。」 静かな口調でが呟く。それに目を丸くしてアグラバインが、「…世の中そんなものだ。」と少女の額に手を乗せた。まだずいぶんと熱い。熱があるのだ。角など気にもしないような自然な仕草で、固く大きな手のひらが滑らかな額をそっと撫でて離れた。 びっくりするように見開かれた目に「こりゃすまんな」とアグラバインがわらう。 「お前さんと同じ年頃の…孫娘がおってな。」 その言葉にが、やわらかく目をたわませる。 「ありがとう、おじいさん。」 もうほとんど夢うつつに呟かれた言葉。その声音は孫娘に似ているようにアグラバインには思われて、思わずふいに、目元を緩ませた。 |