真っ青な空に、ポォンと少女が投げ出されたのは、もう季節が十以上巡る前のことになる。

 ある日ぐいと襟首ひっ掴まれるような感覚がして、あっと思った時には空の上。軽い体が風に煽られてたかぁく舞った。


 彼が彼女を拾ったのは、ある晴れた日のこと。穏やかな旅の空。なんともなしに見上げた彼の目から、ぎょっとする間もなく星が飛んだ。
 ゴチン!
「あいたたたた…!」
 あいたで済んだことこそ奇跡。
 彼は地面に尻餅をついて、降ってきたものを呆然と見つめた。それは後ろに倒れた彼の上にちょこんと乗っかって、ぶつかった背中をさすりながらきょろきょろ辺りを見回している。
 細い手足に、角のないまぁるい輪郭。降ってきたときの衝撃こそ大きかったが、軽い。華奢な体つき、大きな頭。
 子供である。
 まだよっつかいつつだろうか。女の子だ。
 細くてさらさらとした髪の毛が、胸の上あたりに伸びている。袖のない真っ白なワンピース。
 あどけない少女だが、その表情はおどろくほど雄弁だった。
 眉をしかめ目をきょろきょろさせながら口端が引きつっている。今にも、なんじゃこりゃ、とでも言い出しそうな顔だった。その表情の複雑さに、まず、小さく違和感。この齢の子供の表情と言えば、もう少し単純だ。おまけに高いところから落っこちてきて、泣きべそひとつ、かきやしない。
 唖然としたまま眺めている彼に、やっと少女は気がついて、きょとんと目を見開いた。

「………どちらさま?」
 それに彼のほうもきょとりとその淡い菫の目を見開いた。
「……お嬢さん、あなた、」
 今、空から。
 そう言おうとした彼の口は、しかし途中で止まった。少女が自らの手のひらを、まじまじと、穴があくほど見つめて、ついさっき彼にだれと訊ねたことすら、忘れているようだったからだ。まるで初めて目にするように、両手の平を見つめきった後で、少女はその手のひらを顔へものすごい勢いで持っていった。顔、頭、おなか、胸、背中!ビタビタと叩くようにした後で、 「どうしましたか」 と訊ねかけた彼の声を、少女の悲鳴と呼ぶには意味のはっきりし過ぎた叫びが遮った。
「………………ち、」
「ち?」
 銀の髪は、ゆったり首を傾げる。

「縮んでるううううううう!!!」

 なにが、と聞けないほどの大音量が、明るい空に響き渡った。






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