閉じた目蓋に差し込む日差しが明るい。
 穏やかな光だ。かつてこんな日光を浴びたことがあったろうかと不思議に思うほど、それは懐かしかった。噫けれどきっと夢だと、は閉じた瞳の奥で自嘲する。自分のいるところに、こんなに明るい日の光がさしこむはずがない―――。しかしふいに手の甲にぴたりとあたたかな感触がして、彼女は大きく目を開けた。
 ―――まぶしい。
 暗闇に慣れた彼女の目には、痛いほどの日光が、白いカーテン越しに燦燦と降り注いでいる。

「ああ、目が覚めたのね。」

 ゆったりと優しい声がした。
 聞き覚えのない声に、がゆっくりとまぶしい目を瞬かせながらそちらを向くと、黒髪に白い額当てをした女性が、彼女の寝かされていたベッドの傍らに腰かけていた。柔らかそうな眼差し。久しく向けられたことのないような、穏やかなまなざしだ。
 不思議そうに首を傾げたに、「ああ、」 と女性が頷く。
「私の名前はケイナよ。あなたを連れてきた、マグナとトリスの仲間なの。」
 ここはゼラムにあるマグナたちの先輩たちのお屋敷で、今そのマグナたちは屋敷の主たちの任務の手伝いに外へ出ているという。
「あなたがデグレアで捕まっていたっていう話はもう聞いてるわ。私もあの場にいたしね。アグラおじいさん…アグラバインさんから、小さいころの話も少し聞いたわ。」
 勝手に聞いてごめんなさいね、と首を傾げられて、は首を左右に振る。
「それでね、詳しい話はマグナたちが帰ってからにしようかと思うんだけど…私たちのこと、話しておいたほうがあなたも安心できると思うの。気分はどう?話ができそうなら、マグナヤやトリス、私たちのこと話すわ。」
「お〜い、ケイナ入るぞ?」
 男の声だ。
「お、目が覚めたのか。」
 ニカ、と屈託のない笑顔を見せた男はフォルテと名乗った。

「もう声は出るのか?」
 その言葉にきょとりと目を見開いたに、もう!とケイナがため息を吐く。
「今から説明するところだったのよ…びっくりしてるじゃない。」
「わりーわりー。でも一番大事なところだろ?」
「まあね…。ねえ、。私たちの仲間にね、いろんな怪我や病気を治す力を持った女の子がいるの。その子が出かける前に、あなたに癒しの術をかけていってくれたから、ひょっとしたら声が治っているかもしれないわ。」
「アグラじいさんから聞いた話じゃあ、あんた昔は喋れてたんだろう?それならアメルの技で治る可能性は高いってことでな。ものは試しだろ?」
 交互にそう説明されて、は目をまじまじと開いたまま自らの喉を抑えた。
 この喉が、鳴る?かつてと同じように。
 いつかこれを塞いだひやりと冷たい手のひらを思い出す。喉に沿わせた自らの手のひらが、じわりと冷えた気がした。この喉を塞いだ暗い影。
 息を吸うために口を開く。力を入れると微かに喉が震えた。

「………―――――――――ぁ、」

 小さいが確かに、鳴った。
 暗闇の中以外で、もうずいぶんと久しく聞かなかったその音。
 目をまん丸くして、今度こそ子供のような表情になってしまったの隣で、二人がよかったと笑う。窓の外で鳥が鳴いた。ここはあたたかい。ほろりとの右目から涙が落ちる。この日差しに、あの暗く冷たい塊が溶けてしまったのではないかとそう思った。





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