「おや?どうしたんですか?みなさん戦いの手を休めて。」
 のんびりと穏やかな、今日の天気の話でもするかのような調子の声音。
「互いの息の根を止めてこそ、完全な決着ではありませんか。さあ、遠慮せずに続けてください。ただしさんを傷つけてはいけません。無事に取り返してくださいね。それからもちろん、聖女も忘れずに。」
 不気味なほどの静けさだった。
「決着ヲツケル意味ハ、スデニ消滅シテイル。」
 その一瞬、機械兵士以外に誰も声を発するものがなかった。
「…どういうことだ、レイム!!今、今が言ったことは―――!!!」
 黙したまま、振り返った上官の代わりと言うように、イオスが吠えかかった。触れれば切れるような凄まじい怒気をそよ風のように軽くいなして、レイムは泰然と微笑んだ。
「おや、さんは口が利けないはずですが。」
「…聖女の奇跡をもってすればそれも容易い、か。」
 そう呟いたルヴァイドが、一歩前へ―――からは離れ、顧問召喚師と歩み寄る。ただその眼差しの切っ先は鋭く、剣には手がかけられたままだった。それを見て、物騒な、とレイムはうっそりと微笑む。
「―――どういうことだ、レイム。」
 空気を裂いて、その剣の先が、レイムの白い顔の直前で静止する。
「どういうこと、とは?」
「デグレアがない、ということだ。」
 なぁんだ、そういってレイムが、場違いににっこりと笑った。

「まだ気が付かなかったんですか?」

 真実を知るマグナたちですら、その言葉の意味が一瞬呑み込めないような、冷たく嘲る響きをしていた。「告げ口しましたね、さん。」 にっこりと、底冷えするような微笑する銀の目に、かつて街角でマグナたちに見せた親しみなど欠片も存在しなかった。
 目の前の剣など目に入らないように、レイムは優雅にくるりと、その場で回って見せる。
「デグレアなんて国、もうないんですよ。わかりませんか?気が付かなかったんですか?ぜぇんぶとっくに、喰べてしまいました。」
 手品の種明かしはなんともお気軽な絶望の過程。ペロリと口端を舐めるレイムのその動きだけ、妙に艶めかしかった。あとは草原も、風さえも沈黙している。
 誰も何も、言わない。
 言えないのだ。
 いまやレイムは依然と変わらぬ優美な男の形して、しかし禍々しい、絶望の象徴。あまりのおぞましさに風すらも黙った。もうこれ以上なにも聞きたくない、見たくないのに、誰もがレイムから目を逸らせずにいる。レイムだけが舞台の上で、朗々と語り続ける。「まったくさんとレディウス将軍以外誰も気が付かないだなんて、デグレアのみなさんの目が節穴で本当に助かりました。」 役者めいた台詞回しも、心の底から楽しげだ。どうしてこんなに静かなのか。
 レディウスと言う名にルヴァイドとアグラバインの肩が跳ねた。噫、だがその続きを、聞きたくない。聞きたくはない。
 おそろしいことがおこる。
 誰かあの男の口を塞いで黙らせろ。さもないと、さもないと―――?
 誰も何も言わない。言えない。
 ただレイムのくちびるが、沈黙の中楽しげに弧を描く。
「さらにつけくわえるなら、」
 聞きたくない。
「そのレディウスを嬲り殺しにしたのは、私だ、ということくらいでしょうか?」
 ルヴァイドの眦が、これ以上ないほどに見開かれた。
 この男は、一体何を言っている。
「ルヴァイドさん、」
 にっこりと、温度のない微笑。
 ルヴァイドの背後で、ストンと何人もの兵が膝を着いた。
 ぜつぼう。
 絶望の時間だ。

「貴方はよく努力された
国家に服従してきた
大変、助かりましたよ
ありがとうございました。」






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