「これが終わったらさんはどうするの?」
 目をキラキラとさせて問いかけられたトリスの言葉に、は目を丸くした。同じような眼差しで、アメルもこちらを見上げている。その後ろでマグナも人好きのする笑みを浮かべていた。
「終わったら…?」
 思いもかけない質問に、鸚鵡返しになる。
「そう!」
「………………考えて、ませんでした。」
 トリスの言う“終わり”の形を考えようとしても、にはどうしても、なにか具体的な像を思い描くことができなかった。すべてが終わったあと。それはつまり、この、悪魔との戦いが終局を迎えたその後、ということだろう。強大で狡猾、残忍な大悪魔。かつてレイムだったもの。その名前を思い浮かべるだけで、は果てのない闇の底を覗くような気分に陥る。かつてに二度目の生を齎した人。この世界でのたったひとりの家族。そのレイムはもういないのだ。いにしえの大悪魔が、喰らってしまった。
 すべてが終わった後?
 だってレイムはどこにもいないのに?レイム。かつての、世界そのものになった人間。
「確かにそれどころじゃなかったかー!」
 うんうんと頷くトリスの目には、きっと、健やかに望ましい未来が描かれているのだろうと思った。そう考えると、どうしてだろう、泣き出したいような気がする。目の前の少女自身も、想像もつかないような忌まわしい血の宿命と因縁とも背負っている。それでもトリスは、終わった後の未来を、信じている。いや、信じていないまでも、信じようとしている。トリスだけではない。マグナも、アメルも、みな、そうだ。
「でもやっぱり先の目標があった方が、やる気が違うと思うんだよね!」
「そうそう!そうです!」
 と、いうことはこの召喚術師の兄妹には何か目標があるのだろうか。すこやかに輝いている頬を見、は曖昧に微笑むしかなかった。
「…皆さんは、どうされるんです?」
「俺は、もっといろんなところを旅して、いろんなこと、見たり、聞いたりして知りたいって思えるようになったんだ。派閥のことは…まだ、色々思うこともあるけどさ。見聞の旅を続けて、もっと先のこと、決めていけたらなって。」
「何お兄ちゃんてば、シリアス!」
「ふふ、そう言うトリスはどうなの?」
「まずはねー!みんなで大宴会よ!シオン大将のおソバとアメルのお芋料理特盛りでっ!!」
「まあ、いいですね。なら腕によりをかけちゃいます!」
「いよっ!アメル!期待してるよ!お芋の星!」
「なぁんか最近トリス、ミモザ先輩に似てきたよなぁ…。」
 無邪気な声がふいに幼い記憶を齎す。
 ―――は大きくなったらなにになるんだ?
 ―――わたし?そうだなぁ、考えたことなかった…でもこれから、この世界で生きてくんだし考えなきゃだめだよね。
 ―――…だいじょうぶだ、

「これから―――、」
 はまだ小さいんだから、これから考えればいい。
 思い出せば口元がほころぶ。優しい記憶、懐かしい声。レイムの他にも、優しいもの、あたたかいもの、たくさん知っていた。 そのことに寂寞とした景色を見るような気分がするのはどうしてかしら。名前を呼んで、記憶の彼方から、笑いかけてくる幼い声。 だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。いつからその声が、たった一人ではなくなった?
「これから考える楽しみができました、ね?」
 先ほどまでとは違うの声音。三人はにこりとわらったの顔を見て、きょとりとすると、それからそれぞれ顔いっぱいに笑みを浮かべて見せた。
さんその調子その調子!」
「やっぱり女の人はわらってるほうがいいって!」
「なにお兄ちゃんそれナンパ!?」
「えっ!」



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