レイムの竪琴と語りの腕は確かだったし、は提案したレイムがびっくりするほどきれいな声で歌った。 上手ですねと目をまんまるにして驚いたレイムに、「合唱部だったの。」 と恥ずかしそうには彼にはよくわからない言葉でわらった。 かわいらしい小さな少女と、美しい銀の髪の吟遊詩人の組み合わせは、どの町でも歓迎された。の界の歌は、拍が難しいものも多かったが レイムはじきに慣れた。少しでも演奏がしやすいようにと、たくさん覚え知っているらしい歌の中から、はゆったりとした優しいものばかりを選んだ。 共に旅をするようになって、やはりが見た目のままの齢ではないことをレイムは実感として学んだ。しかしその体は幼く弱いままであることを、レイムは自身よりも早く理解した。夜も過ぎれば重くなる目蓋も、歩く際の一歩の距離も、やはり大人のものとは違う。拙い指先やすぐ疲れると眠くなる体に、はよく癇癪を起こした。慣れない旅からくる負担もあったろう。その度に 「体は子供なのだから仕方がありませんよ。」 とレイムは優しく宥めてやる。するとすぐには反省して、「わかってるんだけどね、どうしても、慣れなくって。」 と苦笑する。その様子は、やはり子供離れして見えた。 「あかい めだまの さそり ひろげた わしの つばさ」 が歌う。 それに併せて、レイムは弦を弾く。幼い少女が歌う異界の歌は、優しく、どこか懐かしい。 街角で、広場で、旅人の休息所で。ふたりは音楽をつくった。 ときおり聞きなれない単語の混じるの歌は、それでも人を惹きつけた。 「きれいな歌だねえ。」 「どこの歌だい?」 そう尋ねられると、かならずはすこし不思議な微笑をして、「ちがうせかいの歌。」 とうたうように節をつけて言った。異界の歌は、優しく、少しさびしい響きを帯びていて、いつまでも聴いていたいような気になった。少女の声がガラスをすり合わせたような、やわらかく透き通った声だったからかもしれないし、もちろんその伴奏の竪琴の音が、饒舌に優しかったこともあるだろう。 初めて人前で歌ったとき、手渡された硬貨を見て、は泣き笑いのような表情を浮かべた。 「やっぱりせかいがちがうんだね。」 知らないお金、と感心したように呟いて、なにか宝石でも握るように一度その小さな手のひらにしまった。通貨の単位を教えてやりながら、レイムは女の子の頭のてっぺんを見下ろして、ふむ、と首を傾げる。 「ではさっそく、あの屋台で昼ごはんにしましょうか。」 初めて自分の歌で稼いだお金で、食べる食事に頬を明るく輝かせたに、レイムは満足そうに笑う。 「レイム、あれ、なに!」 「レイム、あれは!」 「レイム、こんなの見つけたよ!」 「レイム、」 「レイム!」 師匠の元を離れてからというもの、ずっとひとりで旅の空だった彼に、少女の存在は苦ではなかった。もともと具体的な目的のある旅ではないから、急ぐこともない。旅こそが目的で、それと音楽と求めるべき唄こそが彼の人生だった。だから幼い少女の歩みに合わせて、ゆっくりと進むことは、なんの気にもならない。 なによりあれこれ尋ねては楽しそうにしたり驚いたり笑ったり感心したり、くるくると変わるの反応はおもしろかった。 自らが案外世話焼きな性格であることを、彼は初めて知った。 生来穏やかな気性の青年だった。 召喚士の家系に生まれたが、8つの頃、屋敷を訪れた吟遊詩人に憧れて、こっそり家を抜け出して以来生家には帰っていない。誘拐犯扱いされる羽目になった師匠とは、16歳になって分かれて以来、もう3年もあっていなかった。お互い旅から旅への生活で、今どこにいるのかすらわからないのだ。と旅をして初めて、三年もひとりでいた自分に、彼はいっそ驚いていた。 師匠もこんな気持ちだったでしょうか、なんて少し、決して優しいばかりではなかったちょっとばかり大味すぎる師のことをほほえましく思ってみたりして。 ある街で揃いの優しい灰色をした、フードつきのマントを買った。 「おそろい。」 フードを頭から被って、ふふふ、とうれしそうに笑ったに、レイムも思わず、にっこりと笑った。 |