「まっさ!か!ちゃんとシャムロックが知り合いだなんて思わなかったわあ〜!」
わざとらしくミモザがにこやかに声をあげながら、シャムロックにしかわからないようにニヤニヤという視線を眼鏡越しに向ける。
恐ろしい女性だ…!
今度こそシャムロックはひしひしと、身をもってその脅威を感じていた。
「ミモザさん、御存じなんですか?」
アメルのその言葉に、ミモザがええ!と顔を輝かせる。
「何度かお花を家に届けてもらったことがあるのよ。いつも玄関のホールに花があるでしょ?」
「ああ!」
ぱちんと手をうってアメルが納得したように頷いた。確かにいつも、あの邸のホールには美しい花が枯れることなく活けられていた。てっきりミモザが活けているのだと思っていた。その視線を受けて、彼女は違う違うと手をひらひらさせる。
「私ねえ、植物って枯らしちゃうのよねー!」
アハハと豪快な笑い声。
言葉も出ない様子のシャムロックには、先ほどからマグナとレシイが、つきっきりで言葉をかけている。ごめん、止めようと思ったんだけど無理で…!すみませんシャムロックさん、僕が御主人さまを止められなかったばっかりに…!
その隣で、はいきなりどこからか現れた大所帯に囲まれていた。どうも彼らが、シャムロックと旅をしている仲間らしいということはわかるのだが、どうにもその視線が、熱い。やたら、きらきらしている。
なぜだろう。
助けを求めようと唯一知り合いである得意先のミモザを見るが、彼女こそその熱さとキラキラの筆頭のようで、すぐさまは諦める。
「ええと、みなさん今日はおそろいでどうされたんですか?」
「よくぞ聞いてくれた娘さん!」
から見ればやたらごつい冒険者―――フォルテが大きな声をあげるので、ビクリを肩を震わせる。
「おっと名乗るのが遅れたな!俺はそのシャムロックの親友でフォルテだ!で、こいつがカザミネ、でトリスにアメルにミニス、あそこにいるのがレシイとマグナだ!」
紹介され、前半の四人はそれぞれはうれしそうに楽しそうに挨拶をしたのだが、後の二人は苦笑気味に「すみません…、」と答えただけだった。心なし、二人はくたびれて見える。
「名前はでいいのか?」
「あ、はい。」
答えると、フォルテが、そうか、ちゃんか…、と何度か口の中で呟く。その間もキラキラした視線を、女性陣が向けてくるので、ますますよくわからない。
「突然すみません。さん、」
アメルと紹介された少女が、やはり輝くようなまなざしで頭を下げた。かわいらしい少女だ。大きな茶色い目玉が、好奇心旺盛な少女らしくきらきらしている。
「私たちとっても気になったものですから…、つい、シャムロックさんの後を付けてきてしまったんです。」
「まあ、」
「そうなのよ〜、ごめんね、ちゃん。止めようとは思ったんだけどねーやっぱりきになっちゃってえ!」
「ミモザ先輩一番乗り気だったくせに…!」
「あら、そんなこと言うのはどの口い?」
「いひゃいいひゃい!ひゃめへくははいへんんふぁい〜!」
騒々しい一行だ。
しかしなんだかおかしくて、目をまんまるにしていたは、だんだん笑いだした。
くすくす笑いが大きくなって、ついに明るく声をたてて笑い出した。それはなんだか、静まり返った街に小さな灯がともるよう。
シャムロックが思わずダメージから回復して、ぽかんと見とれた。がそんな風に笑うところ、みたことなかったのだ。驚いた。
「あー!さんわらったひどぉい!痛いんだからねミモザ先輩のほっぺつねり攻撃〜!」
「ふふ、ごめんなさい。だって…、おかしくって!」
「も〜!」
きゃっきゃと明るい声があがる。
まったくどうして、このトリスという少女を始め、仲間たちはこんなにも誰かと仲良くなるのがうまいのだろうか。もうすっかり以前からの友人のように、笑いあっている。
そうしてやっとその和やかな状況に安心したのか、半分泣きそうだったレシイも、その輪に加わった。「つのがあるのね、」「はい、僕、獣人なんです。」なんだかほほえましい会話。ミニスとレシイのちびっこふたりに見上げられて、の目元もいつも以上に優しげな色をしている。
しかし次の瞬間、再びシャムロックは石化することになる。
「でも私、知らなかったわ!シャムロックにこんな綺麗な恋人がいたなんて!」
「僕も、知りませんでした!」
「え?」
のひとことが、なにより如実に、すべてを物語った。
「…え?」
誰かがぽつりと呟く。え?シャムロックを振り返り、その石化した状況を見、もう一度目をまん丸くして固まっているを見る。
あー………、把握。
「あ、あら?あらららら?…あー、……ゴホン。撤退。」
ミモザの一言と共に、波が引くようにススススス、と笑顔のまま、彼らが去っていく。ごめんなさいごめんなさいと泣きわめくレシイを、トリスが抱えていった。
後に残ったマグナとシャムロックと。
そして彼らが消えた路地裏から聞こえてくる、「フォルテっ!!やあっと見つけた!!あんたたちイイイ!覚悟はいいでしょうね!」「ふふふ、ミモザ、なにをしているのかな?」「ギャアアアア!ケイナやめっ」「ちょっ、ギブソンなにその杖しまいなさいよちょっとやだほんとごめんなさいごめんなさあああああ」という悲鳴。のち、爆発音。
「シャムロック!さん!ほんとごめん!」
それを聞いてマグナは泣く泣く路地の向こうへ駈け出した。王都内で今この戦が始まろうという緊迫した中、召喚術と悲鳴の乱発は、まずい。
駈けながらチラリと振り返ると、シャムロックの顔も赤かったが、の顔も赤かった。
―――あれ?
これって意外となんとかなるかも。そう思う前に盛大な爆発音が聞こえてきて、マグナはすっかり、そちらに気を取られて花屋の前に立ち尽くすふたりのことを忘れてしまった。
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