デグレアの冬は体の芯がギシギシと軋むように冷たい。
こればかりはこの地で生まれ、育ったにしても慣れないとは白い息を吐き出し足踏みをしながら思う。足を動かすたびに、雪がキュッキュと小さく鳴った。茶色い大きなストールをしっかり羽織直して、はもう一度深呼吸をする。肺までキンと澄み渡るような痛みが広がって頭の芯がスッキリと冴え渡った。
「さむい。」
口に出してみても変わらない。
「さーむーいー!」

「何をやっているんだ。」
呆れたような平坦な声が聞こえたのは、が寒いと大声で言うのと同時だった。
振り返ると、イオスとゼルフィルドが雪の中立っていた。任務帰りなのだろう、どこかしらボロボロのふたりは、城の台所の勝手口に立って足踏みするを、びっくりしたように眺めている。
一方のはというと、二人の姿を認めてふっと息を吐くと頬をほころばせて笑った。
「ゼルフィルド!とイオス!」
、コンナところニいてハ風邪を引ク。」
「…そうだぞ。(ついでか?僕はついでなのか?)」
真っ赤になってしまっているの頬と鼻の先を見ながら、ふたりがかわるがわる言った。しかしそれには、いやあなんというか・・・えへへ、と曖昧に返事を返すしかない。
それにふたり(というのもおかしな話だったろうか。ひとりと、一台?しかしそれはゼルフィルドにはどうにも当てはまらない。)は、またなにかしでかしたのかと顔を見合わせる。

「なにカあったカ?」
「どうせまたなにかやらかしたんだろう。」
「シカシこの寒さノ中侍女長ガ放り出スとも思エないガ。」
「…よっぽどなにかしたのか?なら一緒に謝ってやるから「違うよもうイオス黙っててよ。」
「…!!」
イオスが白い顔をさらに白くして絶句する。その様子は機械兵士にすら哀れに見えたのだろうか、ゼルフィルドがすかさずフォローの言葉を入れた。
、イオス ハ お前ノことヲ心配して言っテイルのダ。」
「…そりゃわかってるけど…ひどくない?私そんなに失敗ばっかしてないよ!?」
三人の間に奇妙な間が開く。
「…そうは思えないが?」
「…。」
「…この前は洗濯をサボってゼルフィルドと昼寝していたし、」
「そ、そうだっけ?」
「その前はルヴァイト様に頼まれた書類をビーニャと紙飛行機にしていたし、」
「え?あれ書類だったの??」
「…。その前はたしかレイムに足払いかけたのがばれて叱られていたし」
「・・・」
、スゴイ汗ダぞ。」
「返す言葉もない!」
そういってがっくりがうなだれると、またふたりは顔を見合わせてその目に似たような優しい光を映してのつむじを見下ろした。
「元気ヲ出セ、。失敗ハ誰にデモある。」
「そうだ、その、…めげるな。」
「…(なんだろうこの扱い。)」

ぐす、と鼻をすすると、イオスの手がふとの頬に伸びた。
「…だいぶ冷えているな。本当にどうしたんだ?」
「  え、 いや!べつに!」
、なにかアッタのカ?」
本当に心配そうにふたりに覗き込まれて、は足元に視線を落とした。ふたりの頬についた汚れだとか、手のひらの真新しい傷だとか装甲の泥汚れだとか。
「いやあ…その、居眠りを、して、しまいまして…」
それにイオスは、またかと眉を下げて、ゼルフィルドはガシャリとすこし愉快そうに腕を鳴らした。
「で?」
「少し外の空気を吸って来い、って言われて?」
「こんなに長時間?」
「雪降ってるの見てたらぼーっとしてきちゃって…はい、面目ない」
それにイオスはやっぱり呆れた、という顔をした。

「僕たちが来なかったらお前、そのまま眠ってたんじゃないか?」
「あはは…」
、このヨウナ所デ寝てハ命ニ関ル。」
「はーい。」
しょんぼりうなだれて見せたにふたりはしかたがない、と目線を交わしあった。
「ほら、中に入るぞ。僕たちだって寒いんだ。」
「はいはい。」
ふたりに促されてあたたかい城の中へと引き返しながらはこっそり笑う。
さあイオスにはとびきりしみる消毒液と、それからゼルフィルドには泥を落とすお湯とタオルを準備してやらなくちゃって考えながら。