三十二


 カズマは沈んでゆく。深い深い静かの海の底へ。
 今日少年は一度も自分に触れなかったなと少しさびしいような気がしながら、でもそれがとても楽しいことだと知っているから、それはちょっと満足そうに口端を持ち上げすらする。少年の手を離れたランダムな電気信号は、カズマに不思議な行動の統一性を齎す。
 カズマが沈む海のそこには、魚がいる。歌いながらピアノを弾く魚の女の子がいる。
 今行くよと白いウサギは柄にもなく少し笑って、水を大きく一掻きした。
 遠くで鯨のソング。渦を巻く海流の音。流れる水の声。その向こうで鳴り続けるピアノ。子守唄をうたっている。おやすみとうたっている。その音が本当は、持ち主のためにならされていたのだとカズマは知っていた。

 届いてよかったな。
 少し笑うと青いワンピースの魚がわらった。
 ―――どうもありがとう。

 水のそこ、二匹は少しわらいあった。