三十四 「お世話になりました!」 結局いただくことになった、白いワンピースと麦わら帽子。 制服を入れた紙袋をしっかり両手で握って、ぺこんと頭を下げたに、またねと誰もが笑った。理香だけは「次は彼女としてきなさいよお!ここは無料宿泊施設じゃないわよお?」とちょっと人の悪そうな笑みでニヤリとわらう。それにはええとと慌ててすっかり参って赤くなって、佳主馬は歯を食いしばって押し黙る。 ―――おや、なんだか昨日とは反応が違う。 これは放っておいて問題なしだな、と理香を片手でおいやりながら、直美が「いーわねえ、若いって!」と、やっぱり少しばかり人の悪いやり方で笑って流した。それにやっと調子を取り戻したらしい佳主馬が、「誰かさんたちと違ってね。」とボソリと呟く。直美と理香が声を上げる前に、万里子が咳払いをした。 「ま、万里子おばさんのことじゃないよ!」 「…私が一番年長者なの、忘れてないかしら。」 すっかり三人はしどろもどろだ。それに思わず、がぷっと吹き出すと、つられて全員が笑いだした。 「ほら、新幹線、遅れるわよ。」 その割に来るまで駅まで送ってくれるとか、ないんだもんなあ。 ぼやく佳主馬の両手には、野菜の入った袋がいっぱいだ。彼の家のぶんと、の分。かぼちゃやじゃがいもなんて結構な質量のあるものがごろごろブチ込まれているので、どちらも結構、相当重い。 それなのに佳主馬はよろけることもなく、平気そうな顔で歩いていて、それがなんだかには信じられないように思った。だってこんなに、重そうなのに。佳主馬の顔は涼しいもので、ただ照りつける太陽に汗を滲ませているだけだ。温泉が出たおかげでバス停ができたのだと聞いた通り、そこに立っている時刻表は真新しい。 「バス、しばらくあるね。」 「うん。」 蝉の声が上手い具合に、二人の沈黙を埋めている。家を出てからというもの、話してはいても、ちっとも二人は、目が合わない。なぜなら佳主馬は、ずっと少し右上を向いているし、は左下を見ていた。 なんとなく、気恥ずかしいような、気分。 ちらと右下にが視線を移すと、やっぱり重たそうな袋が見えて、ちょっと不安になって右隣の佳主馬を見上げる。彼は丁度バスの来る方を見ていて、やっぱり目が合わない。 「い、池沢くん、持とうか?」 「大丈夫だよ、これくらい。」 「でも、」 おどおどと伸ばされた腕を見て、それから佳主馬は思いがけずちょっと笑った。呆れたようでも困ったようでもなく、ただわらっただけ。それにが目を開いて固まる。 「さんちょっと焼けたね。」 夢と同じだ。入道雲も空で笑っていた。 |