六


 そのクラスメイトの横顔は授業の最中も常に、窓の外に向かっていた。彼女がほとんど授業に出ていないことは百も承知だろう教師の方も、当てていいものか注意していいものか迷ったのだろう。それでも果敢に当てた数学の教師は、彼女の「わかりません。」というきっぱりした一言の前に撃沈した。しかしそのプリントの回答欄が、比較的早いスピードで正しく埋まっているのを彼は見た。
 ―――変なやつ。
 なんとなくクラス全体が、そわそわしているのがわかる。彼女の席は一番後ろだけれど、みんなの背中が彼女を見ている。居心地が悪そうだなと思いながら、そんなこと関係ないように彼女が外ばっかりみているので、案外図太いのかなとも思った。よくわからない。

 昼休み。
 彼女は相変わらず外を眺めている。授業が終わったのにも気づいてないんじゃないかと彼はふと思い当たった。あまりにも微動だにしなさすぎる。
 少しためらった後、その顔を覗き込んで見る、と。

「…寝てる。」

 思わず呟いた瞬間、彼女はばちっと目を開けた。びっくりしたように佳主馬を見て、それから窓の外、天井、黒板、机の上、と視線を目まぐるしく動かして、それから最後に小さく、「寝てた…?」と言った。
「寝てたよ。」
「…寝てた。」
 佳主馬は首を傾げてから、彼女の席の方へかたむけていた体を元に戻した。そのまま弁当を取り出して、広げたところでなんとなく隣を見ると、また彼女は窓の外を見ている。
「…昼飯、」
「……んっ!?あ、えっ、私?」
「そう、あんた。」
「えっ?」
「昼飯、食べないの?」
 その質問に彼女はことんと首を傾げた。
「持ってきてない。」
「…購買いけば?」
「んー、まあ、別にいいかな、って。」
 しばらくきょとりと、二人は顔を見合わせる。
「…飯はきっちり三食たべろよ。」
「な、なんで?」
 そのなんでは、もちろんなんでお前にそんなことを言われなきゃいけないんだ、というニュアンスだったが、佳主馬はそれを敢えて無視した。思わずぽろっと言ってしまったものは仕方がないし、彼はその教えを厳格に守らされて育ってもきたのだ。まさかそれを他人に言う日が来るとは思っていなかったが、なんにせよ目の前の女の子は細すぎるし、その教えはとても大切なものだとも思う。
 続けて口を開きながら、彼は自分もやはり、あの血筋の人間だったのだなあと少しばかり自分で感心していた。こういう風に、他人にとやかく口をつっこむのは、自分の役回りではないと思っていた。

「…お腹が減るのは、一番いけないことだから。」

 それは一番当たり前で、シンプルだけど大事なことだ。なぜってそれが、生きるということだから。
 の口が、ぽかんと開くのを、彼は無愛想な表情で見ている。