七


 次の日もは学校にいた。

「…おはよう。」
「え、あ?」
 だからあんただよ、と呆れたような眼差しを佳主馬が向けると、はやっと慌てたように目も口も大きく開いて声を発した。
「おは、よう!」
 なんというか、反応するまでの時間が緩慢だなと佳主馬は思った。ぼんやりというか、鈍いというか、非常時に逃げ遅れそうなタイプだと思う。
 そんな感想を抱かれているとは露とも知らず、はふたたび、窓の外に視線を戻す。くあ、と一つ、小さな欠伸。寝不足だろうか、その割に教室に来るのは早い。
 そう言えば彼女が学校に来る時は、必ず佳主馬よりも早く、席に座っている。彼だって結構チャイムが鳴るよりも前に教室に入るのに、だ。寝不足なのに早起きが得意だなんて、器用なやつ。あらためてを眺めるが、窓の外へ向かっている顔が、佳主馬の方を向くことはなかった。まあこっちを向かれたところで、話すこともないから、別にどうでもいいのだけれど。
 鞄を肩から下ろすと、ゴキ、と少し鈍い音がした。教科書だのノートだの、高校生ってのは持ち物が多すぎる上に重すぎると、心底うんざり、彼は思う。

「おー!池沢おはよう!」
「おはよう。」
 騒々しく教室に雪崩れ込んでくるクラスメイトに、彼はすぐ隣の女子のことを忘れた。