十 「…お前に人格って、あるのかな、」 誰にともなくひとりごちるが、もちろん返事は返ってはこない。 風呂の後で一バトル終わらせた彼は、今日も眠りの海へ沈もうとしている自らの分身を、画面越しに少し指でつついた。カズマに人格が、自我が、感情が、あるのではないかと思う瞬間はバトルの他にもある。 オオオオオオオオオオオオオ―――――オンと心地の良い波の音。ゆったりと目を細めて、カズマが沈んでゆく。気持ちよさそうに、水に身を任せて。抗うことなく、沈み続ける。 どこか遠くで聴こえる歌。一定のリズム。 佳主馬はなんとなく、カズマがこのアプリを"気に入っている"ような気がしてならない。 子供じみた空想かもしれないけれど、もしも、もしも自分の相棒と、喋ったり笑ったりできたら、それは素敵なことだと思う。もうほとんど大人になりかけた彼の部分が、そんなことあるわけないけど、と肩を竦めて、それでも残念そうに少しわらう。わかってるさ、そんなこと。 波の音に耳を澄ませながら、彼は目を閉じる。ウサギの耳が捉える音を、その耳で聞きながら。 |