十一


 快挙だ。

 三日連続では学校へ来ていた。
「…おはよう。」
「あ、おはよう!」
 流石に三日目で慣れたのだろう。佳主馬の挨拶にも、一拍置いてすぐ彼女は返事をした。
 佳主馬が机に教科書の類を詰め込むのを横目で見ながら、はなんとなく、そわそわした様子だ。ちらり、と佳主馬を横目で見ては、ぱっと眼を逸らして窓の外を眺め、しかしまたうろうろと、視線が彼に戻ってくる。
 …なんだろうか。
 それをちょっと呆れたような気持ちで横目に見、佳主馬ははあと溜息を吐いた。なんとなく、従姉を思い出したのだ。
 恋愛がらみでなにか聞いてほしい話があるとき、普段は尋ねる前に向こうからまくしたてるタイプである彼女は、黙ってそわそわと、しかし聞いてほしくてたまらないと言うように、よくこういう仕草をした。

「…なに、」
「えっ!」
 が肩を跳ね上げる。その心境は、なぜわかった、とでもいう感じなのかもしれないが、いかんせん分かりやすいのが悪い。もう一度これ見よがしに溜息を吐いた佳主馬に、は慌てて机の横にひっかけた白いビニル袋を取り出して見せる。
「おべんとう!もってきた!」
 カサリと乾いた音で鳴るのはコンビニの袋だ。
 なにもってきたの、と佳主馬が尋ねると、心なしか嬉しそうに、がその中身を机の上に並べていった。
「鮭おにぎりと、」
「うん。」
「おべんと卵と、」
 ああそれ美味いよなあと思ったが佳主馬は黙っていた。
「裂けるチーズと、」
 さっきからタンパク質か炭水化物しか出てきていない気がする。ちょっと佳主馬が眉間にしわを寄せる前に、が自信満々に袋から最後の中身を取り出した。
「野菜生活!」
 どうだ、と言わんばかりであるが、なんというか。
「…及第点。」
 なんで、とが悲鳴をあげるより前に、「おっはよー!」とひとりでどやどやという効果音付きの岡山が、教室へ入ってきた。
「おはよー池沢!あ!さん今日もいんじゃん!おっはよ!」
 おはよう、と若干その勢いに気押されながら挨拶を返すの机の上を見、岡山がぐりんと首を傾げる。

「なにそれおやつ?」

 朝ごはんにしては少ないし、なんか偏ってるっていうか野菜生活とりゃいいってもんじゃないよねー、などという無邪気な感想に、佳主馬は女子ってすげえと内心慄いている。