十六


 鮭おにぎり、サラダ、からあげ、野菜生活。

「…まあ合格。」
「87点ってかんじ!」
、俺のプチトマトをやろう。そうすれば90点になる。」
 の今日の昼食を見ての、クラスメイトたちの感想である。ちょこんと白っぽいキャベツの千切りの上に、無骨な指でプチトマトを飾られて、がしどろもどろに礼を言う。確かに90点…と呟きがどこからともなく漏れてくる。
 3点分のプチトマトをに進呈した山口のキャラクターは、ここ二日で確実に崩壊していた。多分、それなりに、きっと、良い方向で。

「彩りは大事だからな。」
 そういう山口の、今日のお弁当のメニューは、三色お稲荷さんと出汁巻き卵にプチトマト、デザートに護摩プリン付きである。揚げは買ったものではなく自分で炊いたらしい。恐ろしい高校生男子もいたものだ。
 今日も今日とて、教室の一番後ろの二席の周囲に、大人数がごった返してのランチタイムとなった。佳主馬はさっさと逃げようとしたところを数名につかまって、結局自らの席で弁当を食べている。…解せない。
「山口、あたしにもトマトちょーだい!」
「岡山にやったら俺の分がなくなるし、お前には立派な100点満点の弁当があるだろう。」
「早弁したからもう50点分しかない!」
「お前ほんとに女子ィ?」
「黙れ赤木!」
 わいのわいのと、賑やかしいことである。
 昨日と違うのはが少し、おかしそうに肩を揺らしながらその会話を聞いていることだろうか。なんとなく、登校してきた三日前より、顔色も明るい気がする。
 大事なのはご飯を食べること、それからひとりでいないことだ。
 その心理は、彼の血族だけではなく、どうやら人類普遍の原理らしいと実感して、彼は改めて自らの偉大な"栄おばあちゃん"に頭の下がる思いがした。
 はにこにこと、コンビニで買いそろえた"お弁当"を口に運んでいる。量が多いと言って、岡山にからあげを一個やっていた。それに対して何か言いたい気がしたが、今までこの半分も食べてこなかった人間が、急に倍の量を食べるとなるとしんどいものがあるのだろうとぐっと堪える。堪えてからその思考の方向性が妙なことに彼は気づいて眉を顰めた。
 お前はの母親かなにかか。
 苦い顔の理由はもちろん、彼以外の誰にも知られることはなく、こっそり佳主馬の海老フライを狙っていた谷内が、慌ててごめんと悲鳴をあげる。