十七 次の日も、その次の日も、その次の週も。やはりはいた。 佳主馬との朝の挨拶にぎこちなさがなくなった頃には、彼女がいる風景はすっかり定着したようだった。もう1年も、彼女のいない風景が定着していたことを、クラスメイトも担任も、本人すらも都合よく忘れたようだった。は毎日、コンビニのビニル袋を持ってくる。量は相変わらず少ないし、やはり授業中、彼女の意識は教室にない。今日は何点、という昼休み、クラス全体を巻き込んでの会話が日常化している。山口は最近、の追加点分のプチトマトを忘れない。 「文化祭?」 「そう!文化祭!」 岡山がパンッと顔の前で両手を合わせて見せる。拝むポーズだ。彼らの高校では夏休みに入る直前に文化祭が執り行われる。ひとりでドヤドヤという効果音がつく岡山の役職はこれだ。文化祭実行委員会。 は急に目の前で拝みながら頭を下げられて、びっくり目を丸くしている。 「そうなの!さんレベルの人間に!こんなこと頼むのは!ほんっとーに!申し訳ないんだけどお願いします!!」 困ったようには首を傾げていて、何事だろうと放課後、教室に残った生徒たちの注目を集めている。 文化祭には、毎年実行委員会が卒業生やOB、OG、保護者の中から各分野で活躍している人間をゲストに招いたイベントを行う。去年は、有名なゲーム会社でディレクターとして活躍する比較的有名人がやってきて、講堂は大いに沸いた。佳主馬もその人の顔と名前は知っていたが、まさか母校が同じとは知らず、目を丸くした記憶がある。 そのイベントに招く予定になっていた卒業生のお笑い芸人が、急な病で来られなくなったのだという。比較的近年の卒業生であり、兄弟で同じ高校に通う生徒などは「兄ちゃんと同級生だったんだぜ!」 と話題に上ることも多い存在で、随分楽しみにしていた生徒も多いはずだ。なにせ教師ですら、「お前ら、昨日のナイナイ見たか!?出てたなあー!ヒッチャカメッチャカ!あいつ数学ほんとにできなくてなあ!赤点付けまくったぞ〜!」などというくらいだ。大人たちも楽しみにしていたろう。 それが急遽、講演キャンセルというのに文化祭は目前で、文化祭実行委員会は途方にくれていた。毎年何人かピックアップして都合のつくゲストを呼ぶのが習わしだが、今年はヒッチャカメッチャカしかスケジュール的に来られる人材がいなかった。今から別の人材を選び出して依頼するには、あまりにも時間がなさ過ぎる。かと言って文化祭の目玉を潰すことはどうしても避けたい。 生徒会や教員たちも一緒になって、文化祭に向けた会議は下校時間を大きくオーバーして毎日のように続けられた。 そうして出た案が、在学生から人材を探すと言うものだった。 在学生で、世界的、それはもう、おそらく、この学校に二人しかいないだろう。 おまけにゲームと聞くと良い顔をしない大人もいる。しかし音楽、芸術と聞いて悪い顔をする大人はほとんどいないし、文化祭にはぴったりだ。だからに話が回ってくるのは、当然と言えば当然だった。 |