二十 「池沢は足!俺は上の方持つ!岡山は先生呼んで来い!」 普段聞いたことのないような山口の大声に、佳主馬ははっと我に返った。二人で持ち上げなくても山口ひとりでなんとかなるんじゃないかというほど、の体は軽かった。 舞台裏の異常に気がついて飛び込んできた体育の原田が、「俺が運ぶから保健室の鍵貰ってこい!」と頼もしい声を飛ばす。気づけば佳主馬は山口と並んで走っていて、少し背中に冷たい汗をかいていた。丁度良く職員室から、講演中だろ廊下を走るなと声をかけてきた先生にむかって、「急病人だよ保健室の鍵ください!」と大声を出すと、慌てたように職員室の窓から鍵が降ってきた。よかった。二階の職員室まで階段を登って、鍵をもらってまた降りて、一階の一番隅の保健室まで走るのはだいぶん時間が無駄になる。 「俺保健の先生探してくる!」 と山口が保健室の方向とは逆に走りだし、佳主馬は鍵を握って廊下の端まで全力でダッシュした。鍵を開けた瞬間、見計らっていたんじゃないかというタイミングでを背負った原田が飛び込んできて、その後ろからの靴を持って岡山が駆けてくる。 「は、原田ァ、さんどうなのよう!」 「どこも打ってないみたいだし呼吸も正常だ。貧血だと思うんだがなあ…ってちょっと待てお前今先生のこと呼び捨てに「してないしてない!」 「原田ー!保健の先生連れてきました!」 「!?山口今やっぱりお前も俺のことよびす「原田先生ちょっっ!と黙ってて下さい!」…すみません。」 美人の大野先生にまで言われてちょっと背中を丸めた原田が哀れだけれど、今はそれを気にしている場合ではない。 ベッドに寝かされたに覆いかぶさるように大野があちこち確認する。下側の目蓋を覗いたり、脈を測ったり、途中ではっと気がついたようにカーテンを締められてしまった。女の子の診察をするので当然と言えば当然なのだが、隠されてしまうと余計不安になるものだ。 なんだか随分長く待たされたような気もし、しかし壁にかかった時計を見れば、そんなに時間は経ってもいない。 五分もしないうちにもう一度カーテンが開いて、少し微笑みながら大野だけが出てきた。 「大野せんせ!さん大丈夫!?」 涙目になっている岡山を落ちつかせるように、椅子に腰かけながら大野が微笑む。いつもきれいにまとめられている髪が少しほつれていて、山口に呼ばれてきっと必死に走ってくれたんだろうと佳主馬は思った。そう言えば、と思い出したように山口がずっと握っていた踵の高いヒールを大野に渡す。あらありがとう、と今思い出したように笑った彼女の足先は、ストッキング一枚の裸足だった。 「うーん、はっきりとは言えないんだけど、」 こめかみに手を当てながら、困ったように一言。 「寝不足。」 思わずその台詞にその場の誰もがぽかんとした。 「と、あと多分栄養不足。貧血…でもあるわね多分。」 ちょっとカーテンの隙間から覗くと、確かにすやすや幸せそうな、の間抜けな寝顔が見えた。 |