二十二 「そのウサギ…、」 唖然としたように、が携帯の画面に浮かぶ佳主馬の分身を指でなぞる。 「そっか。このウサギ、池沢くんだったんだ。」 確かに"カズマ"は有名だ。知っていてもおかしくないが、それを操っている人間が誰かなんて、直接の知り合いでなければ知らない人の方が多い。匿名性の高いオンライン・サービスなんてそんなものだろう。 「名前は、なんて言うの?」 その無邪気な質問は、彼女が"キング・カズマ"を知らないということの証明だった。 キングカズマ知らないの!?と岡山が叫んでいる。佳主馬は静かに思考していた。では、なぜ、彼女はカズマを知っている? そうだ、は確かに、彼の分身を知っているのだ。しかしそれが、"カズマ"という名だとも、"キング"の称号を冠した、ある夏の日以来特別な意味を持つようになったウサギなのだということも知らない。 「キングカズマって言うの?」 「いやそうじゃなくってね!キングなんだってさん!」 「王様なの?」 画面の向こうにむかって、が微笑みかける。まるでカズマが、その問いかけに応えてくれるとでもいうように。もちろんカズマは応えるはずもない。画面上で沈黙している。 「池沢くんも、ねむれない?」 ふいにあたり一面、海になったような錯覚に佳主馬は陥った。 青い水底で、水の流れが彼の髪を揺らす。ゴポリ、とどこかで空気の泡が生まれる音。鯨のように、黒い、大きな車が滑り込んでくる。真っ青な暗闇だ。この海を知っている。 水の底、あどけない表情で、がわらった。 |