「猫になりたいなぁ、」
とその子が本当にしみじみと呟くので、僕は少し困って笑う。
「どうしたの、突然。」
それに彼女は、顔をガバリと勢いよく上げて、少し大きな声を出した。
「突然じゃ、ないよ!」
「しー。」
放課後の図書館は静かだ。僕が人差し指をたてる前に、すぐ近所から飛んできた非難の視線に、その子は小さく肩をすぼめた。
「突然じゃ、ないんだよ。私、ずっと思うの。猫になりたいなぁって。」
小さな声で、が話を続ける。かわいい内緒話。僕は少し笑う。
でもは猫ってかんじではない。どちらかと言うなら、子犬だ。ちっさくて綿飴みたいな、ころころした子犬。ピンクの鼻。考えてたら微笑ましくなった。
えーじも犬だろうな、ってそう考えて、女の子と二人でいるときに親友のことを考えるのってどうなんだろうか、と思い直して止める。
はまだ話している。ひがな いちにち ひなたで のんびり。いいねと相槌を打ちながら、僕はまったく違うことを考えている。
猫の。小さくて丸くて白くて、やっぱり綿飴みたい。僕の後をニイニイ鳴いて、ついてくる。やっぱり犬より、猫の方がいい。猫は、なかなか、へこたれないもの。
君が猫なら。そうだな、どうしようか。目をやった窓の外の空は真っ青だ。テニス日和。受験生にはもう関係ないけれど。空が本当に真っ青だ。消えないように傷つけて、それから思い切り甘やかしてあげるよ。そう考えて少し笑う。はまだ猫になる生活について話している。
放課後だ。僕がなに考えているか誰も知りやしない。
なんだかとてもおかしく、愉快で、窓を開け放って笑い出したくなるのを僕はの話に頷くふりをしながら耐える。
ああ本当に。君が猫なら話は早いのにね。
(放課後のわらう黒猫/20080629)(スピッツの猫になりたいは正宗のドSソングという話(^ρ^))
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