雨が上がった。
この季節の雨は、ほんとうに透き通った水色をしている。
女の子が通る。青いビニル傘たたんで、女の子が通る。やわらかそうな色した髪の毛だ。
緑の中に幾つもぷかぷかと浮かぶ、寄せ集めの青い花。まるい形は鞠のようだ。ぽんぽんって蹴りながら曇天に放り投げて歩いたら青空連れてくるだろうか。
空はぼんやりと白く曇っている。早朝の光が反射して少し明るいくらい。雨上がり独特のにおいがしている。
男の子が通る。青と白のおっきなテニスバッグ背負って、男の子が通る。まっすぐで猫みたいな髪の毛だ。
紫陽花の垣根には丸い花がたくさんたくさん。はちきれそうにたわわに咲いて、雨つゆを集めてる。まいまいが緑に透けた葉っぱの下をゆくよ。青い花びらの露に虹が映っている。
女の子はいつも少し微笑んでいる。そして鞄をしっかりと両手で持って背筋を伸ばして歩く。胸元の真っ青なリボン。
男の子はいつも少し睨むような顔をしている。真っ直ぐな背筋できびきびとゆったり歩く。大きな手のひらと筋張った首筋。シャツのボタンはてっぺんまできっちりと止まっている。
毎朝二人はこの辺りですれ違う。
彼の学校はいささか有名で、彼自身同じ部活をしていれば少しばかり名が知れている。彼女からは彼の部活は一目瞭然だけれど、その子の部活を彼は知らない。
雨が降る日は少し急いで、晴れた日はのんびりと。ふたりはなにも言わない。ただ、行き過ぎる。
ツバメが一匹、通り過ぎた。電信柱が蜘蛛の巣みたく、濡れて細く光る。
紫陽花の垣根でいつもすれ違う、あの子の名前を彼はまだ知らない。
(紫陽花通り/20080629)
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