あたたかい日差しと共に、タビの元気も戻ったようだ。
 いささか有名になりすぎた川沿いの桜の下を、てくてくと歩く。日曜日なのに制服着て通る高校生、知らない遠くの国の人、地図を手にどっちが北だと言い合う三人組、不思議と等間隔にならんでいる若い恋人たち、自転車乗りながら口笛吹いているおじさん。いつもと変わらない春の景色だ。
 けれど今年は、なんだか特別なようにには思えた。だって今年もその春にいつものようにタビがいてくれて、本当によかったなあと思うのだ。
 桜が咲いている。向こうの山が、紫色だ。そのもっと向こうの山は、青くなって、空に霞んでる。狭い街を南北に走る川は、空の色映していつもより青いようだ。都の春は少しばかり青の色素が強い。その中にはらはらと、砂糖菓子みたいな真っ白な花の色。

「あったかいなぁ、」
 言うと「せやなー!」と元気なお返事。うーんと思いっきり背伸びをして、今日は部活がお休みの金太郎くん。相変わらずの健脚で、京都までひとっとびだ。愛馬ならぬ愛機、ママリャリはの家に置いてきた。そうしてタビをつれて、河原をのんびり、のんびり。とちゅうでお花見団子も買って、なんだか遠足みたいな気分だ。見上げた先の赤い髪は、なんだかさらに、遠くにあるようだ。まだまだ伸びると豪語するこの少年、いったいどこまで伸びるのだろう。
 だんだんだんだん大人びていく横顔は、それでもまだかわいい、と思う。それがいつか、白石くんや謙也くんみたいな、かっこいい、になるのかしら。
 見上げられていたことに気が付いたのか、ふっと金太郎がのほうを見下ろした。目がカチリと合う。
 どうしてかしら、少しぎょっとしてしまってが後ろにのけぞると、チリンチリンと盛大な自転車のベル。河原の道は何分狭い。
「おっと!」
 あぶないで〜、
 がぎょっとするより先に、いつも通りの無邪気さで金太郎がの腕をとっさに引いた。赤い自転車にまたがってやたら大きなカバンを両脇に抱えているお姉さんがヨロヨロと、しかしすごいスピードで通り過ぎて行った。
「あっぶないなぁ!」
 あきれたようにそれを見送って、金太郎が腕を離す。
 ヒラリと桜の花びらが降ってきた。
「だいじょぶやった?」
「…うん。」
「気ぃつけや〜、、ポーッとしとるもんなあ!」
 珍しく自分が注意する側の立場なので、うれしそうに、なんだか得意げに、こういうの、水を得た魚っていうのかしらん、歯を見せて金太郎が笑っている。お日様みたいな笑い方。噫まったくこんなんで部長がほんとに務まっとるんかいなと不思議なくらいに変わらないきんたろくん。無邪気で明るくて元気いっぱいで。
 そよと高いところにある赤髪が春風に揺れる。
 いっつもと変わらない、はずだ。なのにどうして。
 どうしてかしら。
 ワン、と足元でタビが鳴いた。
 お嬢、僕、それ、なんて言うか知ってるで。

 ワン。