夢を見た。昔の夢。
『かあさま、ではもうエルフはいないのですか?』
見上げた先で寂しい目をした母が笑った。
『いないのです。』
『なぜです?』
どうして子供というものは。
どうして子供というものは、どうしてあんなにも無邪気でいられたものなのだろうか。
『遙か昔に海を渡って『なぜ?』
『時がきて悪が滅びたので『なぜ?』
『…知っているでしょう?王とエルフとドワーフと小さな人と魔法使いと人間が『ねぇなぜエルフはもういないのです?』
『いい加減になさい!』
母が悲鳴をあげる。
やめてくれ、もうやめてくれ。その目が泣いているのだ。
『!』
『ああどうしてあなたは!』
『…ごめんなさい。』
『……いいえ、母さまも悪かったわ。』
いつでもその人は疲れていた。
『…でもねかあさま。』
母の顔が悲鳴をあげる寸前のように冷たく凍り付く。
『もうエルフはいないのに、』
やめてくれ、悲鳴が聞こえるようだ。
(どうして。)
『どうして私のお耳は、』
はっと目を覚ましてはうっすらと冷たくほほえむ。
「私のお耳は、か。」
目線をあげた先に鏡がかかっていた。は顔を歪める。
噫その星明かりに満ちた美しい面差し、冷たく尖ったその耳の先。
遙か孤独の時間を生きるその。(エルフ。)
(噫もう西へ船を出す灰色のエルフはいないと言うのに。)
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