夢を見た。昔の夢。



『かあさま、ではもうエルフはいないのですか?』
見上げた先で寂しい目をした母が笑った。
『いないのです。』
『なぜです?』
どうして子供というものは。
どうして子供というものは、どうしてあんなにも無邪気でいられたものなのだろうか。

『遙か昔に海を渡って『なぜ?』
『時がきて悪が滅びたので『なぜ?』

『…知っているでしょう?王とエルフとドワーフと小さな人と魔法使いと人間が『ねぇなぜエルフはもういないのです?』

『いい加減になさい!』
母が悲鳴をあげる。
やめてくれ、もうやめてくれ。その目が泣いているのだ。
『!』
『ああどうしてあなたは!』

『…ごめんなさい。』
『……いいえ、母さまも悪かったわ。』
いつでもその人は疲れていた。


『…でもねかあさま。』
母の顔が悲鳴をあげる寸前のように冷たく凍り付く。

『もうエルフはいないのに、』
やめてくれ、悲鳴が聞こえるようだ。
(どうして。)

『どうして私のお耳は、』





はっと目を覚ましてはうっすらと冷たくほほえむ。
「私のお耳は、か。」
目線をあげた先に鏡がかかっていた。は顔を歪める。

噫その星明かりに満ちた美しい面差し、冷たく尖ったその耳の先。
遙か孤独の時間を生きるその。(エルフ。)

(噫もう西へ船を出す灰色のエルフはいないと言うのに。)



<01.old time
20070513/