なぁんだ、と声を揃えてつまらなそうに、その癖どこか楽しげに言ってのけた双子の星を前に、まだ若い二人のエルフが心持ちすまなそうに肩をすくめている。 「せっかく宴の席で紹介しようと思ったのに、」 「まさか知り合いになって仲良く一緒に帰ってくるとはね…。」 はあとため息を吐くタイミングは同時。左右別々の手を頬に当てて、エルラダンとエルロヒアが視線を互いにやる。 彼らの目の前には、とレゴラス。森の王子らしい優しい緑の服をきたレゴラスと、淡い藤色のドレスを着た。彼女の黒髪には白い花が一輪、そっとわらっている。彼らが並んで森から現れた時などまったく一幅の絵のようだ。うつくしいものに見慣れたエルフの目ですらそうなのだから、これを他の種族が見たら、夢だとでも思うだろう。実際エルフと呼ばれる種族と多種族との邂逅は、現の夢にも及ばぬ夢の、はかなさと美しさを湛えている。しかし彼らにとっては、それでもやはり日常だから、驚いたのも一瞬で次にはいつも通りのお喋りが始まる。 まだ宴の準備も終わっていないというのに緑葉殿ったら流石に油断ならないね。ええまったく。 そんな会話さえ始めた二人に、当の本人が困ったなぁと眉を下げて笑った。 「偶然会ったものですから。」 小鳥に声の主を尋ねたことは黙っておこう、と苦笑の後ろで考えながら、レゴラスは同意を求めてを振り返る。双子の兄の様子に案の定うろたえさせられている彼女は、レゴラスの視線を受けておろおろと頷いた。やはりその様子は、小鹿か小鳥か小さな幼子。あまりいじめてはいけませんよ、と彼が言う前に、よく通る声が響いた。 「お兄様たち!」 麗しい眉を吊り上げて、呆れたように二階のバルコニーから身を乗り出しているのはアルウェン姫だ。 「あんまりをいじめないでくださいといつも言っているでしょう!しかもレゴラス殿の前で!」 「おやみつかってしまったね。」 「アルウェン、君のその大声は多分裂け谷中に聞こえているよ!」 なにせ我々の聴力ときたら素晴らしいものがあるからね!そう返したエルロヒアに、アルウェンはよどみもせずに言葉を返した。 「あら!じゃあお二人の大人げのなさもきっとみんなに聞こえているのでしょうね!」 これは手厳しい、とちっとも懲りた様子を見せずに二人は笑って顔を見合わせ、それにアルウェンはバルコニーから首をひっこめてしまった。 「怒らせたかな。」 「いやあ、なにせ難しい年頃だから。」 「も数十年したらああなってしまうのかな?」 「おお、!そのまま素直で優しい妹のままでいてくださいね!」 子供にするように、高い高いと二人に抱え上げられてが目を白黒させる。笑い出そうにも恥ずかしく、しかしそれでもくすぐったいような微笑が勝った。やめて下さい、と少し顔を赤くしてそれでも苦笑するに、緑の光が降る。 なんとなく、目を眇めてそれを眺めたレゴラスの背中から、再びさっきよりずっと近いところでアルウェンの鈴の声が鳴る。 「お兄様!」 「やあ、アルウェンもしてほしいのかい?」 「もう!おふざけにならないで!」 「あの、エルラダン、そろそろ下ろしていただけませんか!」 「なんのこれしき!は軽いもの!」 「そういう問題ではないのですけれど…!」 「もうお兄様!いい加減を下ろしてください!」 「お兄様ってが呼んでくれなきゃ下ろせないな!」 まったく仲の良い兄妹たちだ。 多分この若いエルフたちの小さな馬鹿騒ぎは、もちろん風に乗ってこの国の主のところに届いてるだろう。さて彼はこれを聞いて眉間のしわを更にふかくするだろうか。それとも――。その続きを考えて、レゴラスは少し、くつりと笑う。 「こんにちは、アルウェン姫。」 そういえば彼女に挨拶がまだだった。それに振り返ってアルウェンが大輪の花の咲くように微笑む。 「ええこんにちは、レゴラス殿!お久しぶりです。ゆっくり挨拶をしたいところなのですけれど、もう少しお待ちいただけますか?今妹を兄たちの手から救い出しますから!」 「それは大変そうですね。」 肩を竦めて楽しそうに笑った彼に、アルウェンが目を輝かせて告げる。 「ええ!そうなんです!手伝っていただけます?」 私でよければ、と笑ったレゴラスに、逃げろラダン!とエルロヒアが笑い、その言葉を受けてエルラダンがを肩に担いで駆け出す。 王子ー!宴の準備はどうなさるんですかー! 後から飛んできた声に「「任せた!」」と流石は双子のぴったりなタイミングで返して、そのまま並んで駆け出した双星と攫われた小鳥を追って、夕星と緑葉も明るい日差しの中へ駆け出したのだった。 |
12.in the sun |
20090430/ |