勇敢な風が、白い手紙を運んで来た。

「オーク狩りに足を伸ばすついでにな。」
 手紙を差し出しながら、からだとロヴェリオンはニヤリと片頬だけでわらった。
「どうもありがとう。」
 そのニヤリがいつものそれと違うのに気づくことのない緑葉の王子は、手紙を受け取りながらにっこりと口端を持ち上げる。それに男は、「俺は最近自分が郵便配達屋なのか、野伏せなのか、わからなくなってきた。」と笑った。もちろん冗談なのだけれど、それに不思議そうに、目の前の二千云百歳が首を傾げるからたまらない。
「冗談だよ。」
「そうかい?でも、あなたほどあちこち移動するなら、手紙を頼まれることも多いのだろうね。」
 その言葉にそうでもないさと野伏が肩を竦める。
「オークを狩りながら移動する連中に手紙を託したところで、届くか怪しいものさ。」
「でも君なら確実じゃないか。」
 無意識の褒め言葉に、居心地が悪そうにロヴェリオンはレゴラスの手に渡したばかりの手紙を覗き込む。
「なんと書いてあるんだ?」
 まだ封を開けてもいない。そう苦笑しながら、レゴラスは首を傾げた。陽光の髪がさらさらと肩から毀れる。生まれた森にあって、彼の髪は彼の黄昏の森にあるときより、明るく煌めいて見える。
「人の手紙を見るのはあなたの趣味かい?」
「いいや!だが、興味はある。」
 そう人が悪そうに笑った人間に、エルフはそれこそ真実年長者のような微笑を見せた。穏やかな、親が幼子を見るような微笑。これを向けられると、どうしてだろう。人間がどんなにむずかゆく、それでいてうれしく、そしてさびしい気持ちになるか、エルフはきっと知らないのだ。
 ―――冗談だよ。わかっていますよ。
 お互いにくつくつと笑いながら、他愛のないお喋り。
 やがて手紙に真剣に目を通し始めた王子の隣で、野伏が立ち上がる。
「行くのか?」
「興味はあるが趣味じゃあないんでな…ああ、そうだ。オーク狩りにニ、三日逗留させていただくぞ。」
 唐突に差し出された言葉に、彼はやはり首を傾げた。もちろんそのつもりだろうと思っていた。この森の王である、父親の許可らしい許可をとるまでもなくそれが当たり前だとレゴラス自身思っていたのだ。
 なぜそれをわざわざ?
 首を傾げた王子に、今度は人の子が年長者のような笑い方をする。

「それまでに返事を書けってことだよ。」

 ああ、と思わず笑ったエルフに、やはり人の子がおかしそうに笑った。


18.human and elves
20111007/