不思議なことにその花冠はちっとも枯れなかった。そうしていつまでも瑞々しいまま、未だ の部屋に飾られている。窓からは真っ白な光がさしていて、レースの布越しに随分と広がって柔らかい。
 は自室の窓からせり出したテラス越しに、やわらかく光る森の木々を眺めていた。なにとはなしに、ただぼんやりとしてしまうのは、三日も前に聞いた報せのことだ。
 すっかり驚いてしまって、レゴラスと兄たちが連れだってオーク狩りに出かける見送りも、あきれて笑われるくらい気もそぞろだった。
 彼女にとっては、こちらの時間へやってきてから初めて出会った自分より年齢が下の存在だものだから、知らないうちになんだかずいぶん、子供のように思っていたのかもしれない。

 花冠を作ったその日、館へ戻るとお祝いの準備が始まっていた。
 アラソルンが妻帯すると言うのだ。まだ若いが、55歳と言えば普通の人間ならば遅いくらいだ。ドゥネダーインとはいえ、まさに適齢期を迎えていると言ってもよい。いよいよ族長を継ぐ、と言うことだろうと事もなげに頷くエルロンドに、は「はあ、」と呆れたような返事をしてしまった。
 ―――だってあの人、私より40も年下なのに。
 そう彼女が言うと、報せだけ済ませてさっさと帰ってしまったアラソルンの代わりに裂け谷逗留と決め込んだロヴェリオンは笑ったのだ。
「エルフと一緒にされては困るな。」
「それにしても、アラソルン殿もあの時言って下さればよかったのです。」
 があの時、と言うのはもちろん、彼らがエルロンドの館を訪れる前に森でレゴラスと共にであった時のことだ。
「恥ずかしかったんだろうさ。それにあなたたちは出かけるところだったしな。」
 そうですが、とエルフらしくなく口を尖らせたに、ロヴェリオンが年長者めいた笑い方をする。実際ほんの三歳ばかり、人の子の方がエルフの娘より年かさが上だった。
「そう言ってやるなよ。」
「お祝いを言いたかったのに。」
 おまけにそのまま、トンボ返りで帰ってしまうなんて。
「後でたっぷり言ってやればいい。」
 しばらく黙って、それからやっと、そうですね、とやっと納得したようには首を縦に振った。そうして 「ああ、」と目元を緩める。
「さっそくレゴラス様に教わった花冠を作ろうかしら?花嫁への贈り物に。」
 胸の前でぽんと手を合わせたに、ロヴェリオンがいいなと目を細めた。
「それはいい。」
 あいつの分は勘弁してやってくれ、とロヴェリオンが笑い、それにが再び口を尖らせる。
「なぜです?」
「あいつも立派な男なのだから、花冠はどうにも、なんだ、恥ずかしいだろう。」
「まあ!そんなこと言ったら2831歳のレゴラス様はどうなるのです?」
「だからエルフと一緒にするなと!」
 ああもうまったく、と頭を掻いたロヴェリオンにが屈託なく笑い声をあげて、これはやられた、と彼の方も笑い出す。裂け谷に小さく響く年の近いエルフの子と人の子の笑い声は、なんだかとても、やわらかい。ふふふと笑って耳を澄ます者、なんとなく落ち着かない気分になる者、様々だけれど、それでもやっぱり耳に心地よかった。

 それからはさんざん柄じゃないと恥ずかしがるロヴェリオンを花畑までお供にして、せっせとレゴラスに教わった通りに花を編んだのだった。白い花、白い花、そればかりを集めて輪にした。思ったよりもずっと華やかで豪華な花冠になって、ロヴェリオンには目の前で編まれるのを手持無沙汰に眺めていたくせに、魔法でも使ったかと驚かれた。
 それから白い紙に文字を添える。
 どうぞいつまでも。


26.lived happily ever after
20120914~1121/