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「きっと私は死ぬでしょうね。」
囁くような調子で、あんまり優しく彼女が言うので、私はその言葉を流してしまいそうになった。
「私はきっと死ぬわ。」
愛してる、そう囁くのとおんなじ微笑で。
噫きっと君は死ぬだろう。人の子の定め、逃れられぬ終幕。我々には永遠に与えられることのない異なった恩寵の形。
伏せた瞼から涙がこぼれた。それは音もなくて雪のよう、静寂をつれてきた。
なかないで、と唇の動きだけでそう言って、彼女の細く白い、彫像の指先が私の頬を拭う。
まるでしあわせな花嫁のように、彼女はずっと優しく微笑んでいる。
「レゴラス、」
泣かないで、と彼女は言う。しかし無理だ。だって涙が止まらない。
噫どうか行かないで下さいと惜しむものはいつだって失われてばかりで。なによりいとおしいものも願ったものもただひとりの友も王も、今ではなにもかもみな失われた。
そうして彼女すら、骨と塵と化し、そうして私は取り残される。たったのひとり、残される。
彼女はうつくしく微笑み続ける。泣かないで、その囁きはこだまする。
しあわせそうな君。残される悲しみなど知りもしないで。
泣かないで。その言葉は呪縛だ。いっそ泣かせてくれ、声をあげたい。胸を掻き毟って。声も枯れるほど喉も潰れるほど。すべて忘れさせてくれ。
『泣くなんてお止しなさい、エルフの旦那。』
友よ泣かせてくれ。
私はただ嘆きたいのだ。この悲しみに喰い殺されてしまいたいのだ。
、。あなたはまるで何も知らないかのよう。
置いてゆく、あなたは私を置いてゆくのに。
なお彼女は微笑む。まるで悲しみなど知らない、園の生き物のように。
(しあわせなあなた、園に住む人。)
じき日が沈むのなんて知りもしないで。
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