花のように笑う子だ。小さな花。名前もないような。その花の笑顔を僕は世界でいっとう美しく、いっとう愛おしく感じている。 「リーマス、あなたこれから魔法薬学の授業ではないのかな?」 「、きみこれから妖精学の授業じゃないのかな?」 もうすぐ始業のベルが鳴り出す直前だというのに二人だけがのんびり歩いていた。他の生徒はとうの昔にいなくなっている。 リーマスもも本来教室に向かっていなくてはならない。お互いに顔を見合せてどちらからともなくにやりと笑った。 「久々に二人でおしゃべりしちゃおうか」 「それ、模範生の台詞ではないね」 二人して胸元にキラリとバッジを光らせながらクスクス笑って姿を消した。 夏の匂いは微かにだが香っている。大王イカの住む湖の周りは普段からひなたぼっこをする人が常に見られるのだが今は誰もいない。 誰もいないそこで二人は大きな木の根元に腰かけた。 「こういうことももうできなくなるんだなあ」 「本来するべきことじゃないけどね」 生徒の模範となるべき監督生が二人ともサボりである。よくもまあダンブルドアも黙っていてくれるものだ。彼は二人のサボりを知っているだろうにときどき目があっても茶目っ気たっぷりに笑うきりなのだ。 それに甘えて二人は仲好くなってからこうしてときどきおしゃべりに興じる。授業をサボることまでは滅多にないがそれでも二人で誰もいない校舎を歩くのは爽快だった。 「リーマスと毎日会えることも、もうないんだなあ」 お互いに同じことを思っていたんだろうか。のんびりした口調でさらりと恥ずかしいことを言ってくれるのがだ。リーマスの方を見ずに湖の方を見つめて眩しげにそう言うものだからリーマスはどうして良いのかわからなくなる。 彼女はいつもそうだった。リーマスたちのように何か特別に目立っているわけではない。ただたまたま監督生に選ばれリーマスと話す機会が出来ただけだ。きっと他寮の、それも女の子と話すことなんてなかっただろう。 「は何になるんだっけ」 「何って、親の家業を継ぐよ。私一人っ子だからね」 そう言って笑う彼女はきらきら輝いている。未来なんてまるで定まらないリーマスとは違っていた。 「何屋さん?」 「花屋。ダイアゴン横丁にあるの。『花のワルツ』、どうぞ御贔屓に」 「花とは縁のない生活だけど、機会があったらね」 リーマスがそう言うとは随分と驚いていた。目をまん丸にしてリーマスの頭から足先までじっと見たぐらいだ。よほど意外だったらしい。 「女の子にプレゼントしたりしないの?」 「まさか。あげる相手もいないのに?」 「いないの?」 もってもてなのに、と本人の目の前で堂々とそう口にしてはへらりと笑った。 「じゃあお店の売上のために買ってあげて? いらないなら私にちょうだいね」 「また花屋で売るの?」 そこでかわいい笑顔でうなずくと思ったリーマスだったがそうではなかった。 「リーマスからもらった物なんだから大事に部屋に飾りますよーだ」 悪戯っぽいその笑顔にリーマスは目眩がした。 |