チラチラチラ、ってなにかビー玉が光るように、オルゴールが小さく鳴っています。どこから聞こえてくるのかしら、って考えながら、はのんびりのんびり中庭を横切りました。
春の日差しはうらうらと遠くの空の方で照れていて、風は綿毛を乗せて花の真上を掠めていきます。
まるで歌うように、いいお天気です。
今日はお休みで、黒くて重いローブは着なくたって構わないし、新しいばら色の靴は下ろしたて。つぼみもふっくらと膨らんで、息を吸い込んだらいい匂い。きっと素敵なことがありますよって踵が踊るように笑います。足は軽くてまるで水の上でも滑るみたい。なんてメルフェンな気分だろ、ってすこし呆れてしまいますけれど、これもこの不思議な春の陽気のせいなのだからしかたがありません。黒猫だって、きっと裸足でワルツを踊ってしまうでしょう。
オルゴールの微かな音色が、だんだん近づきます。道はもうとっくになくなってしまって、の目の前に続くのは裏庭へ続く緑の洪水。
どうしようか、って少し腰に手を当てて、それもこんな素敵な出来事のしっぽを逃がすわけには行かなくって、は腰くらいまで茂った草っ原を突っ切っていきます。結局はこういうことになるんだよなあ、なんて笑いながら、でもこっちのほうが冒険っぽくてもっとわくわくするな、考えながら草をクロールみたいに掻き分け掻き分け、音のするほうへ。踵が騒ぎます。ほらもっと早くもっともっと軽やかに!なんだか手足がぐんと大きく伸びるような気分です。待ちきれなくって駆け出したいくらい。
これってきっと春のせいだ、そう考えたらおかしくってぽこぽこお腹がくすぐったくなります。ひとりでなんとなく微笑みながら、道もない草原をまっすぐまっすぐ。野ばらの繁みも突っ切って木のトンネル抜けたらほら、すぐ近くでオルゴールが鳴っていますよ。
広けた森の芝生は黄緑の光でいっぱいです。光がそこだけまぁるく円を描いて舞台のよう。右からも左からも聞こえるのは三拍子のオルゴール。
「あれっ、!」
「あっちゃあ見つかったね!」
「お前が騒ぐから…。」
「あーあー、ったらそんなにいっぱい草つけて。」
野原の真ん中には銀色のオルゴール。の新しい靴はばら色。悪戯仕掛け人は今日もなにやら楽しい秘密のご相談。
なあんだまたあなたたち?、っていうには今日はあんまり天気が良すぎました。だってこんなに素敵なお天気です。彼らの魔法だって倍も三倍もとびきり素敵でしょう。悔しいのでもちろん素直にそう言ってはあげませんが。
「見つかったからには仕方がないね。」
「お前も共犯だからな。」
さあお手をどうぞ。差し出されたよっつの手のひらに、そうね、今日ぐらい付き合ってあげてもいいかな、とちょっとえらそうに考えてはにっこり笑います。
だってほら今日は花だって猫だってみんな踊るようなお天気!
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