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「ちょっと待てこんなんありか。」
そう呟くの眼前に展開される光景を見よ。
双子は仲良くこたつの一辺に収まっているし、アーサーとモリーも新婚よろしくもう一辺に収まっている。その向かいのビルの膝にはちゃっかりジニーが座って、チャーリー一人がどう身を縮こめても収まりきってしまう一辺とその間の角に、なんとかパーシーが収まっていた。驚異だ。4人がけの布団は、なんともこれ以上ない飽和状態ながらウィーズリーさん家の大家族を収納してしまったのだ。
なにが敗因だ?両腕に抱えた大土鍋を取り落としそうな気分に陥りながら、は口端をひくつかせる。
そうだ、そもそもジャンケンで勝ったメンツが悪かったのだ。
チャーリー、ビル、、アーサー。
文句ぶーたれる双子筆頭のブーイングの嵐の中、「じゃあ私鍋用意してくるから」と台所にが席を立った間に、まずいじけた顔の妹にビルが優しく手招きをした。
「ほら、俺と一緒に入る?」
この男、最近お年頃でパパの後でお風呂入るのはいやっ、などと言い始めた妹が自分とならコタツが一緒でも構わないという自信があるのだ。もちろんその自信は裏切られることなく、ジニーはうれしそうに頷いてビルのあぐらの上にちょこんと座った。
「あったかいねぇ。」
「そうだなぁ。」
二人はまったくほのぼのしている。
その向かいでは、アーサーが大きな体をちょこちょこと端へつめて、モリーに目配せした。
「まあほら母さんも入りなさい、狭いけど。」
まあ、と頬に手を当てながら、モリーがいそいそコタツに入る。狭そうながら幸せそうなのがにくいコタツマジックである。
そして双子は、ニヤリと顔を見合わせ席を立ったの場所に二人して滑り込み、チャーリーは申し訳なさそうな笑顔でひとり残ったパーシーに、「狭いけどここ来るか?」と声をかけた。
そうしてウィーズリー家が完璧に収納された後、の登場である。両手に抱えたぐつぐつ煮立った大土鍋を、一瞬双子の頭にぶち込んでやろうかと考えて、報復が恐ろしいので止める。
しかしそれにしてもなんとも幸せ家族な図である。たったひとり、は爪弾きなことを除いて。
双子が同時にくるっと振り返って、に向かってそれはそれはニヤリという笑みを浮かべた。
「あれっ!やっと鍋できたのー!」
「おそーい!ほら早く早く!僕らはおなかがぺっこぺこさ!」
「双子デストロイ!」
「ぎゃあ意味わかんないよ!」
「暴力反対だよ!」
「ビル!あんたのこの弟共どうにかしなさいよ!ここは私の場所オオオオ!!」
「ごめん、俺今立てないから…」
「、早くお鍋置かなきゃこぼれそうよ。」
冷静かつなんだか愛の感じられないジニーのひとことにの心は敗北した。ヨロヨロとなんとか歩くとコタツの真ん中にドンと鍋を下ろす。重たい蓋を取ると、湯気と一緒にグツグツ煮えている鍋の中には鍋と言えばの野菜と蟹の匂いが部屋一杯に広がった。
ワオ!美味しそう!などという楽しそうな歓声に対して、はついには部屋の隅で本格的に体育座りをし始めた。数年前ならこれで立派な非行の始まりである。
「いや、いいんですよ別に…楽しんでくださいよ家族で。蟹食ってくださいよ、家族で。」
暗いオーラを背負って、が呟く。なんだかこのまま呪文無しでも呪われそうだ。
「僕らの間にはいりなよ!」
「そうそうほら!」
すかさず双子が告げた言葉にも、はちょっと振り返っただけだった。その顔には、ふざけろこの野郎、と火でも吹きそうな勢いで書かれている。
「うーわー…ひどい顔だよ…。」
「見たことないけど伝説のジャパニーズ・ブルー・ドラゴンみたいだよ…。」
「双子うるさいデストロイ。」
「、狭いけどここ来るか?」
次に名乗りを上げたのはビルだ。満面の笑みで自分の隣の僅かなスペースを指差す。ジニーも一緒ににっこりと笑って食べましょうよ、と笑った。しかし、の顔には、男前だからってなめんなよジニーちゃんありがとう、と書かれており、体育座りを崩す気配はない。
「なかなか手ごわいな…。」
「うーん…。」
「箸ってどう使うんだい!」
「もうパパったらちょっとは空気読んでよ!」
アーサーの陽気な声もジニーがすかさず叩き落とす。そういうお年頃なのだ。仕方がない。
「、」
静かになった部屋にやっぱりすこし困ったような声がした。
「ここに来る?」
チャーリーが自分とパーシーの間を指差している。パーシーは嫌そうな顔をして、それでもため息を吐くとビルのほうに詰めた。
その様子を眺めながらがボソリと呟く。
「…狭いよ。」
「…やっぱり?だめかな、」
短い赤毛をガシガシかいて笑ったチャーリーの顔を見てがもうひとこと付け加える。
「…だめじゃないよ。」
それにチャーリーが笑う。まったく笑うと目がなくなるんだからこれにはどうしたって彼女は弱いのだ。
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