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緑の光がきらきらきらと降り注ぐ、明るい夏です。 小さな森のすぐ傍らに、小さな煉瓦造りの家がある。小さな川が流れていて、ちっちゃい煙突がひとつ。真っ白な洗濯物が風に揺れてて、楽しそうな声。 「!!だめだよ!お外に行くときは帽子を被らなくっちゃったら!」 「ぼうしいやなのー!」 「だーめ!」 ほら捕まえた!そう笑って、弟の方が少女を抱き上げた。きゃっきゃと笑い声を上げながら、あたりの景色は輝いて、初夏の日差し。森は明るい。野ばらが星のように、深い緑の中でまたたく。 「ほぉら。帽子かぶろうね?かわいいおリボンがついてるよ〜。」 そう微笑まれて、少女は渋々帽子を被った。麦わらで編まれたそれには真っ赤なリボンにお花のボタンがついていて、かわいらしい少女にとても、良く似合う。 よく似合うよ、とほめられて、さっきまで嫌だと言っていたのも忘れて少女はうふふとくすぐったそうに肩を竦めた。赤いワンピースに白いサンダル。くるぶしと膝が杏の色をしている。 「兄ちゃんもそう思うよねぇ。」 急に話を振られて、彼はギョッとした。 弟とが、似たような眼差しで、彼を見上げている。きらきら、という効果音が聞こえてきそうだ。その目に見られると、どうにも駄目だ。弟に対してだって、彼は幼い頃からそうだった。そこにこの小さな女の子が加わってからというもの、彼はどうにも、気合を入れてからでないとまっすぐ彼らの眼差しを受けることができない。 の目は緑色、している。森の緑、夏の色。きれいな色だね、と弟はなにも考えず無邪気にそれを讃えることができるというのに、彼にはどうも、どうにもだめだ。まずその目玉と、自分の茶色い目玉を合わせなくてはならないと考えただけで、どぎまぎしてしまっていけない。 今も帽子が似合うとほめてほしいのは分かっている。 分かっているけど、 「…さ、さあな!」 これだもの。 くるりと背を向けた背中で、見なくたってがしょんぼりしているのがわかる。弟は多分内心こちらに呆れながら、を慰めている。同じ双子でどうしてこうもちがうのか。思わず背中が丸くなる。 そもそもが、フェリシアーノにばかり懐くのがわるいんだ。 ――おれが最初に見つけたのに。 そう思った後で、必ず彼はそれまで以上に嫌な気分になる。そう思うまでは、弟やや、その他諸々の不満に対して心の中で呟いて嫌な気分、させているだけなのだけれど、そう考え出すと自己嫌悪というやっかいなやつが顔を出す。ああ、まったくその通り。犬や猫じゃああるまいし、どちらが最初とか後とか関係ない。が懐くのが悪いんじゃなく、子供に、に好かれる弟が悪いんじゃなく、懐かれず子供に好かれない、素直でも明るくも優しくもない自分が、わるいのだ。わかっている。 わかっている。 だからますます背中が丸くなる。 「…ちょっとアントーニョのとこにトマト取りに行ってくる。」 兄ちゃ〜んと情けない声が、後ろから飛んでくる。 ああクソ、なんだってお前はそんなになんでも全部持ってるくせに弱虫の泣き虫。 ますます苛々して蹴った小石は、思った以上に飛ばず、蹴りあげたつま先が痛いだけだった。 |
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