丸まった背中が去ってゆく。 それを少しきょとんとして、ふたりは顔を見合わせて、それから見送った。 「まったく兄ちゃんたら…、」 腰に手を当てて、ちょっとをフェリシアーノが見下ろすと、小さな目いっぱいにがちょっと涙を浮かべていた。彼女を刺激しない程度にぎょっとして、そおっとフェリシアーノは膝をつく。 「とっても似合うよ、って兄ちゃんは言いたかったんだよ。ほんとはね。」 が何か言う前にそう言って、そうっと頭を撫でてやる。小さなは口をきゅっと結んだまま、彼にしがみついてきた。小さい小さい。彼らの子供だ。 「泣かない泣かない。」 ね?と笑ってやりながら、抱き上げてポンポンと背中を叩いた。ゆったりしたリズム。昔じいちゃんがよくこうしてくれたっけ。 彼の兄がを拾ってきてから、もう七年が経つ。泣きつかれて眠ってしまった赤ん坊を真ん中に置いて、一晩二人は散々悩みに悩みぬき、出した結論はひとつだった。周りからは、その、ヴァルガス兄弟子育て宣言に対して「あかん!無理や!やめたってー!親分一生のお願いいいい!」「なにを考えているのですかこのお馬鹿さん!」「悪いことは言わん。やめろ、やめよう、やめておけ。」「え?なんなん?あんたらが子供育てんの…?…冗談、きっついわあ…」「いくらフェリちゃんとお兄様でも駄目だと思う!」「……引き取ってくださる方をご紹介しましょうか?」だのなんだのさんざん反対のご意見をいただいた。それでも二人は頑なに頑張って、その内いろんなひとに助けられたりしながらも、ここまでなんとか、やってきたのだ。 。。僕らの子。 だってちゃんと大きくなった。もう彼のおしりの辺りまで身長もある。あの頃より随分重くなった――それでもまだ随分軽い、を抱えなおして、彼はちょっとわらう。 拾われてきたばっかりの頃は、彼が抱くと泣き出したものだ。そのくせ兄がおっかなびっくり、なんだかんだと文句を言いながらも抱き上げると、ぴたりと泣き止んだ。 「ロヴィおにいちゃんは、のこときらいなの…?」 「まっさかー!」 くるんをびっくりしすぎてまっすぐにしながら、フェリシアーノは大声を上げた。その大声にはびっくりして、ぽろりと右目から涙が落っこちる。まあるい涙。 それを見ながら、まったく兄ちゃんたら、と彼はちょっと憤慨する。帰ってきたらお説教のひとつやふたつ!怒るのが苦手な彼ではあるが、かわいい養い子のためなら怒れる気がする。 しかしその前に、目の前のこの子をなんとかしなくては。ムンと胸を張って、それから彼は言った。 「ぜぇっっ!たい!そんなことない!」 「…ぜったい?」 「ぜったい。」 だって俺たちが大好きだよ、そう言って鼻を鼻にくっつけて擦り合わせたら、くすぐったい、とが泣きべそのまんま笑った。まったくどうやらこの泣き虫は、彼らに似てしまったらしい。指の先で涙をちょっと拭いてやる。 だいすきだよ。早く育って大きくおなり。ひねくれていてぶきっちょで不器用で、そのくせ誰より優しくって、自分の気持ちってものに鈍感な、そんなどこかの誰かさんのためにも。 「はかっわいいからきっと美人になるよ〜。」 ヴェヴェ〜と笑うと不思議そうに首を傾げられた。 うんきっとそうなる。 にこにこ笑ってちょこんとおでこに口つけた。 「たくさん遊んでたくさん食べて、早くおっきくなるんだよ。」 「…うん!」 たくさん食べて大きくおなり。一つ季節を重ねれば、君はそれだけ大きくなれる。 多分きれいになった女の子、見たら、あの鈍感さんもきっと気がつくんじゃないかと思うんだけど。 そんなことをこっそり考えて笑うと、ずれてしまった帽子をまっすぐに直してやりながら、緑の目と彼は自分の茶色い目玉を合わせた。 ああほら泣きべそかいて。 ヴェ、と彼独特の効果音でにっこりしてやったら、も笑った。あたりにお花が飛ぶ。 「さ!お散歩行こう!そしたらご飯食べてぇ、シェスタして〜、」 ふふふと彼の頭の上に顎をのっけて、が笑った。落っこちないようにって首と顔に回された手がくすぐったかった。 |
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