僕の新しい友人を紹介するよ!といつになくはしゃいだ弟のように生来かわいがっている幼馴染が、親しげに背中を押して彼の前に立たせたのは黒い瞳に黒い髪、白いを通り越してすこしばかり青褪めた象牙の肌の、背の低い、ひょろりと細い少女ともつかない女だった。細身のジーンズに、白いシャツ。地味というより素っ気ないほどシンプルだ。化粧っ気はまるでなく、華はないがさりげなく整った造作をしている。その造りは明らかに彼らとは人種が異なった。人種の坩堝と呼ばれる国に暮らす彼らには、対して珍しいことではないが。

っていうんだ!」
 輝く太陽のような笑顔で肩を組み、アルフレッドがはっはとわらう。彼の金の髪と、彼女の黒髪は正反対だったけれども、そのサイズの違いや接し方から、なんとなく兄妹のようにも見える。
「で、彼がアーサー・カークランドだよ!」
「あーよろしく。…ええと、チャイニーズ?コリアン?」
「ああ、日本から来ました。」
 短いながらも流暢な英語だった。
 台詞の最後に一応、と小さく小さな口が付け加える。一応ってなんだろうかと思ったけれど、つっこむほどのこともなく、流してしまった。そもそも初対面の人間と、積極的にコミュニケーションが図れる人間ではない。
 よろしくと差し出した手をごくごく自然に、同じようによろしくと握り返してくる女の年はいくつなのだろう。小さくて、細い手。肌の表面はさらさらとしていて、少し冷たい。東洋人の女の肌はシルクのようだ、というあの俗説は案外本当なのかもしれないと彼は密かに感心する。象牙を漂白したような白い頬。彼の胸あたりまでしかない身長やひょろりとした体、起伏の緩やかな顔立ちは少女のようであったけれど、その底知れない瞳の深さは年上かもしれないという恐れのような感覚とチラと齎す。そのあまり動かない表情も相まって、年齢不詳だ。
はルポライターやってるんだけどさ、今ガーデニングに興味があるんだってさ!誰か紹介してくれって頼まれたんだけどガーデナーに友達はいないし…と思ってふいに窓の外を見たら君ん家の庭だろ!これだっ!て思ったんだよ!!いや〜!君ってば昔っから土いじり好きだもんな〜!!」
「…プロってほどのもんじゃないが。」
「いやいやいやあの花はすごいよ!も今度見にこればいいさ!」
 手塩にかけた庭を褒められて悪い気はしない。少し照れて頬を掻きながら、幼馴染を見やると、に向かってアーサーの庭のすごさについて説明している。その間もは、熱心に聞いていはいるのだろうが相槌を打つ表情があまり動くことはなく、音声も静かだ。噫日本人だな、とそこで彼はやっと実感として把握する。

「でもルポライターってことは…記事にしたり…?」
「ああ、いいえ。こちらは趣味ですから。なので本当にプロの方を紹介していただいても申し訳ないなと思っていたのですが、アルさんがアーサーさんならプロではないし、でも腕前は僕の見る限り一級だから、と。すみません、取材でもないのに紹介をお願いしてしまって。」
「そう、か。」
 普段あまりこの幼馴染に面と向かって褒められることがないので、彼は大いに照れている。こんな風にあけすけの賛辞を受けたのなんて、ジュニアスクール以来じゃあなかろうか。
「照れるなよ気持ち悪い。」
 感動しかけた彼の心の高鳴りを遮るように、口をとがらせて、心底気持ち悪いというようにアルフレッドが腕を擦る。季節は秋の初め。寒気を覚えるにはまだまだ暖かい陽気だ。もちろん大げさな演技ではあるのだが、それが彼の『心底気持ち悪い』をよく表していて、そんなに気持ち悪がらなくてもいいじゃないかと傷つきやすいアーサーの心は若干ズタズタになる。
「照れてねえよばかあ!」
「あ〜もう、ほらね、、アーサーってこういうやつだし全然女の子の友達いないんだ。だから悪いことなんてないからむしろ仲良くしてあげてよ!」
 あははとがやっとここへきて笑顔らしい笑顔を見せた。そこはお世辞でも否定してほしかったと思いながらも、アーサーは初対面の女性の手前、グッと黙る。
「よろしければお話を聞かせてください。機会があればお庭の写真なども、撮らせていただいてかまいませんか?」
「ああ、もちろんだ。」
 ありがとうございます、とまた笑って、頭を下げたに、アーサーが少し慌てる。この『オジギ』なる文化に彼はあまり慣れない。しかしなんだ、それにしても、わらうとけっこう、かわいいじゃないか。
 それがアーサー・カークランドとの遭遇だった。