「ええいお前らあ!」
馬鹿なと誰もが目を見張った。は崩れたタワーの上に、堂々と立っていたのだ。避雷針を掴んで、登頂を遂げた登山家のように。
さながらそこは世界一高い山であるかのようだった。白いはちまきが風に靡く。黒い長い髪も白い羽織りもすべて強い風に煽られて旗のようだった。
体中血と泥と砂埃とに汚れて、ああそうだそこは世界のてっぺんに違いなかった、はきらきらとした笑顔で颯爽と笑ったのだ。
煙と炎と焼け焦げた大地、累々と横たわる屍の群、怒号と悲鳴、それらを突き抜けて、彼女は光を放った。それは誰の目にも届いて、誰もが顔を向けた。味方はもちろんのこと、そう、敵ですらも。
「なにやっとるがじゃあの馬鹿娘はぁ!」
坂本のでかい声がどこかで聞こえた。あああいつもまだ生きてる、戦場で何人もの人間がニヤリと笑ったり息を吐いたりした。
けれどそれよりもの行動が、彼らの心臓を凍らせるのだ。
馬鹿だ、だってなんであんな目立つところに。的にしろと頼むようなものだ。ここでは汚れていてもやはり白はひどく目立った。
縋るようなたくさんの目線の先で、が、刀を宣誓のように掲げた。
折れてる。
真ん中辺りでぽっきりと、いっそ潔いくらいに見事に折れていた。
泣き出しそうな気持ちで、彼らはそれを眺めてた。あの馬鹿娘、なんて笑顔だ。
「死ぬ時はジジイになって畳の上で大往生!これ、約束だかんね!!」
心の底から、そんな笑顔だった。
どおん、と閃光が炸裂する。爆風が続く。タワーが崩壊する音。ガラガラと世界が終わるような音。土煙。タワーはもはや形もない。一瞬思考が、真っ白に消し飛んだ。
(あんの、)
「馬鹿野郎がああああああ!!!!!」
叫んだのは誰だった?もはや悲鳴にすらなりきらない彷徨だ。彼らは吠えた。がむしゃらに剣をふるった。ばかなばかなばかな!視界の隅で誰かが倒れた、誰かが死んだ。
しかし彼らの目の前で爆風と閃光に呑まれたあのかがやくような笑顔。細い体躯。はためく羽織り。ニカッと見えた歯。そればかり浮かんだ。
四方八方にばらばらに散らばっていた彼らは、なぎ倒し斬り裂き突き刺しぶち殺しタワーを中心に集まりつつあった。真上からそれを見たら、そうだな、なんだか黒い人々の群が真ん中へ小さく縮こまっていくように見えたかもしれない。
白いはちまきが翻る。誰かが倒れた、誰かが死んだ。
いつの間にか爆音は止んでいた。やがて悲鳴も怒号も小さく細くなる。
がしゃり、帷子と足の下の瓦礫とを鳴らして、白かった羽織の男たちがよろよろとそれぞれ違う方向から歩いてきた。肩で息をして、どの顔も必死だ。壮絶、とでも言えばいいんだろうか。それとも悲惨?
彼らはお互いをただ認識した。この面子が生きていることは、ある種彼らの自信であったからだ。坂田、桂、坂本、高杉、その四人の他にもちらほら知った顔が見える。
戦は終わっていた。おそらく彼らはこの一勝負にはわずかに勝ったのだ。そして次こそ負ける。
しかし。
タワーの薄ぼけた黄色い瓦礫の隙間に、花のような白が見えた。
誰もなにも言わなかった。無言でそれに近づく。
それは腕だった。真っ白な腕。人殺しのくせしてほっそりとたおやかな優しい腕。体は瓦礫に押し潰されて見えない。
本当に花のように、肘から上が覗いていた。
ほんのわずかに人差し指が、天を指している。花びらのような爪、手のひらの形。
ああ、と呻いたのは誰だったろう。
暗い空が割れて、わずかに光が指した。
(いつだって花のようにわらってみせたよ、その手のひらは泣き出しそうにやさしかった、君がだいすきだ、だいすきだ、だいすきだのに、なのになのに君は。)
君は花のような |