「ああ、ひょっとして。君は」
そこまで言うと、彼ははっと言いよどむようにして、うしろめたく辺りを見た。そうして誰もいないのを確認して、やっと用心深げに、言葉を発しようと彼が吸い込んだ呼吸の音は、狭くもない部屋なのに、いやに大きく響いた。
「ひょっとして君は、君は人間に恋しているのか?」
一気にそう言うと、彼はその言葉自体が大罪であるかのように、決まり悪げに視線を彷徨わせる。
その声は、囁きにも満たない小さなものだったくせに、まるでそれでも足りず世界に響いたものだから、それが元となって我と我が身を破壊してしま うのではないかと彼は恐れているのだ。