真っ白な光に満ちた駅だった。
ここで降りるんですよ、そう笑って背を押した男の言葉通りに荷物も何も持たず(最初から持ってなんていなかったしね。)よろよろと汽車を降りた。
思わずまぶしくて目がくらんだ。

やっと光に目が慣れて、そろそろ目を開くと、プラットホームに女性が立っていた。
シリウスは、はっとして目を見張る。その人をよく知っていた。あまりに知り過ぎていた。
?」
それは確かにだ。真っ白いリネンのワンピース。ひょろりと細い真っ白な手足を光に滲ませてわらっている。さらさらと髪が揺れて、黒い目玉が本当に嬉しそうに細められるのをシリウスは堪らなくいとしい気持ちで眺めた。
(よかった、ひとつも変わってない。)
うれしくてうれしくて、堪えきれないような。なんてこうふくだ。ここには失ったものがある。
「シリウス。」
が名を呼んだ。それだけでシリウスはほっとしてしまって、泣き出しそうにわらった。
、噫、…変わりはないか?」
なにか言いたいことはたくさんあった気がしたのだけれど、それくらいしか言い出せなくて、でも、そんな会話で十分だ。がくつくつと笑いながら、シリウスの右手を取った。ひんやりとした手のひら。やさしい指先。
「うん、元気だよ。私も、リリィも。ついでにジェームズも、ね。」
両手でシリウスの手のひらをぎゅっぎゅ、と握りながらがいたずらっぽくほほえむ。
(噫なんだ、みんなこんなところにいたのか。)
シリウスは情けなくわらった。嬉しい気持ちと安堵の気持ちが飽和して、いっぱいになってしまって、笑っていなければ泣いてしまいそうだったのだ。

「そっちはどう?」
がまだシリウスの手を握ったまま尋ねる。
「色々だ。…噫本当に。」
(ほんとうに。)
シリウスは今度こそ片手で顔を覆って、ほんの少し泣き出した。
「…色々あり過ぎたよ。」
がやさしくほほえみながら、それでもやっぱりシリウスの手をずっと触っている。泣かないでとも泣いていいよとも言わなくて、ただただその指先はやさしい。
「俺もすっかりおじさんなんだ。」
なんとなく濡れた目で笑って、シリウスはを見やった。はおかしそうに笑って、シリウスをまっすぐ見上げた。
「そりゃそうだよ、だってハリーが13歳なんだもの。」
ハリー。その名前は鐘のようにふたりの間に響いた。仲間のだれからも、きっと愛されてうまれたちいさなおとこのこ。
「ねえ、ハリーにまた会えた?」
が尋ねる。
「…いいや。」
シリウスは呆然と答えた。(そうだまだ俺は。)
「いいや、まだだ。」
それに、なあんだ!とが目を開いて声をあげた。
「それじゃあまだだめだめ!リリィが怒るもの!」
が笑って、シリウスの背中を押した。汽車が待っていました、と言わんばかりに高く鳴いて、車掌が笛を吹く。
。」
ほんの少しまた泣き出しそうになってを見たら、驚くくらいきれいにがほほえむので、シリウスは「…いってくる。」とだけ囁いた。

車掌がもう一度、もどかしげに笛を鳴らす。繋がれていた手が解けた。
「だいじょうぶ。」
が笑う。
「私シリウスがおじいさんになっても気にしないよ。」
優しい目で言った後で、思い出したように、他に誰か女の子を連れてきたってだいじょうぶだからね、と、ふっと真面目な顔でが言うので、無理すんなよ、ってシリウスはニヤリとわらった。
「いってらっしゃい。」
汽車が出る。
真っ白なホームで、が手を振って笑った。
リーマスによろしく。
(ああなんだって最後にリーマスを出すんだ。)
「ああ!」
って手を振りかえしなだら、ほんの少し口を尖らせると、ジェームズの笑い声がどこか遠くて高らかに鳴った。
『だいじょうぶ、また会えるよ。』
ああそうだな、って瞳を閉じて、「またね、シリウス。」白い世界が遠ざかるのを、シリウスは、

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